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フェルスタッペン、今季のタイトル争いに復活? 大逆転は可能か、それとも不可能か?|motorsport.com各国のライター陣が考察

フェルスタッペン、今季のタイトル争いに復活? 大逆転は可能か、それとも不可能か?|motorsport.com各国のライター陣が考察

今シーズンは開幕から、マクラーレン勢の2台が圧倒的強さを見せてきた。オスカー・ピアストリとランド・ノリスのふたりがランキング上でも抜け出し、今季のタイトル争いはこのふたりの”一騎打ち”になる……誰もがそう思っていた。しかし、そこに3人目の男が分け入ってくる可能性がある。レッドブルのマックス・フェルスタッペンだ。

 フェルスタッペンはイタリアGPを圧勝し、アゼルバイジャンGPも勝利。いずれもポール・トゥ・ウインであった。フェルスタッペンはこれで今季4勝だが、以前の日本GPとエミリア・ロマーニャGPはマクラーレン勢をなんとか抑え切っての辛勝。イタリア、アゼルバイジャンの2勝とは、趣が大きく異なる。

 マクラーレン勢はこの2戦の間、イタリアGPこそノリス2位、ピアストリ3位と表彰台を確保したが、アゼルバイジャンではノリスの7位が精一杯。ピアストリに至っては、なんと1周目にクラッシュし、戦線を離脱した。

 現在ランキング首位のピアストリは、2番手ノリスに対して25ポイントのリードを築いている。そしてランキング3番手のフェルスタッペンは、ピアストリから69ポイント遅れ……その差はまだまだ大きい。しかしマクラーレンのアンドレア・ステラ代表は、フェルスタッペンがタイトル争いに加わってくる可能性を警戒している。

 フェルスタッペンの実力は周知の事実。そこにようやく戦えるマシンを最近になって手に入れた。勢いそのままに、フェルスタッペンはこの争いに加わってくることになるのだろうか?

フェルスタッペンがチャンスを手にできるかどうかは、マクラーレンにかかっている:フィリップ・クリーレン

 ステラ代表は土曜日の夜、フェルスタッペンもタイトル候補のひとりであると宣言した。当時のフェルスタッペンはピアストリから94ポイント差……残り8戦でそんな差を埋めることができるのか? その発言は真意なのかと、数人のジャーナリストがステラ代表に詰め寄った。

 そしてフェルスタッペンは日曜日も快走。ピアストリとの差を69ポイントにまで一気に縮めた。残りは7戦である。

 マクラーレンの本来の速さを考えると、ピアストリとの差を縮めるのはほぼ不可能だと言っていいだろう。イタリアGPやアゼルバイジャンGPでのマクラーレンはそれほど速くはなかったが、シンガポールやカタール、そしてメキシコなどの高いダウンフォースレベルが求められるサーキットでは、マクラーレンが息を吹き返すのは間違いないだろうからだ。

 フェルスタッペンが残りのレースでかなりの数勝利したとしても、ピアストリとしては2〜3勝を挙げれば十分なのだ。

 しかしそれができるかどうかはマクラーレン次第。運命は全て、彼らの手中にある。

 アゼルバイジャンGPは彼らにとって、2度と繰り返してはいけない最悪の週末だった。ドライバーはふたり揃ってミスを犯し、レース中にはピット作業も失敗。さらにマシンのパフォーマンスも期待外れのモノだった。

 ステラ代表がフェルスタッペンがタイトルを獲得する可能性について言及したのは、おそらくそのためだろう。チーム全員に、油断は禁物であると呼びかけたのだ。

 確かに今季のマクラーレンは、コンストラクターズタイトルを手にするのはほぼ確実だ。しかし復活を遂げたレッドブルを相手に、チームはドライバーたちを失望させるわけにはいかない。

 フェルスタッペンがタイトルを獲得できるならば、それはマクラーレンが何らかの失敗を犯した時……ということになろう。

ライコネンの事例を見よ! フェルスタッペンの逆転は不可能ではない:ジェイク・ボクソール=レッジ

 フェルスタッペンがこのまま劇的な復活を遂げ、マクラーレンのふたりのドライバーが厳しい冬を迎える……そうなる可能性は十分にあると言える。もちろん、それは高配当であり、現時点では万馬券のような確率かもしれない。しかし人生は、ブックメーカーのように予想通りにはいかないものだ。また数字的には、ジョージ・ラッセルにだってチャンピオン獲得の可能性はある。ラッセルは現在ランキング4番手で、首位ピアストリから112ポイント差だ。

 フェルスタッペンもラッセルも、数字の上ではかなり厳しい状況であるのは間違いない。しかしそれを覆した前例があることもまた事実だ。それを説明するには、少しだけ前置きが必要なので、お付き合いいただきたい。

 今季のF1は残り7戦。シーズンの29%強がまだ残っていることになる。ひとりのドライバーが獲得できる最大ポイントは199。グランプリ7勝で175ポイント、さらに3回のスプリントで24ポイント……合計で199というわけだ。フェルスタッペンは現時点でピアストリに69ポイントの差をつけられており、これは獲得可能最大ポイントの34%に相当する。

 これを、以前の例と比較してみよう。

 2007年にF1チャンピオンに輝いたのは、当時フェラーリのドライバーだったキミ・ライコネンである。当時のシーズンは17戦だったが、今季現時点での残り同様29%……当時でいえば残りが5戦となった段階で、ライコネンはランキング首位のルイス・ハミルトン(当時マクラーレン。しかもルーキーだった!)から16ポイント差であった。

 この差は現在から比較すれば非常に小さいように見えるが、当時は優勝ドライバーに加点されるポイントは10であったため、実際にはかなり大きな差であったと言える。残り5戦で最大50ポイント獲得できるわけなので、差の16ポイントは32%に相当する。

 前述の通りフェルスタッペンは、34%分の差をつけられているため、2007年のライコネンに比べれば、わずかに劣勢と言えるかもしれない。

 このデータは、現代の常套手段である「都合の良い数字を拾い集めてきて、主張を裏付ける」という意味で、鵜呑みにすべきではないかもしれない。しかし重要なのは、32%の差を覆し、大逆転したという事例が実際にあったということだ。

 マクラーレンがウォールにぶつかったり、同士討ちしたり、あるいは設計の限界に躓くならば、フェルスタッペンが大逆転を成し遂げる可能性は十分にあろう。

記憶に新しいライコネンの大逆転。しかももっと奇妙な出来事もあった:スチュアート・コドリング

 2007年のF1 Racing誌のスタッフだった時のことをよく覚えている。年末の数ヵ月にわたるドライバーズチャンピオンシップの変遷を、各号の発売期間中に時代遅れにならない、そんな魅力的な表紙にしようと奮闘していた。印刷時に決定的なレースが行なわれる際には、本当に大変だ。

 同年の10月号では、ベルギーGPの結果に応じて4種類の表紙を用意した。それでも、スパのホテルでWi-Fiの電波が微弱な中、ニュースと「リアクション特集」の校正を夜な夜な行なった。

 当時我々は、次の号はよりシンプルになったと思っていた。ライコネンは、もはやタイトル争いからは脱落したと思っていたのだ。そのことは、表紙をデザインするデザイナーにとっては都合がよかった。ライコネンはカメラ嫌いで有名だったため、表紙に使うに足る顔写真が不足していたからだ。

 しかし大波乱となった最終戦ブラジルGPを受け、土壇場で計画変更を余儀なくされた。ハミルトンが目立つ表紙に、ヘルメットを被ったライコネンの姿を付け加えたのだ。私は、新しい表紙のキャッチフレーズとなった「ブラジルGPを語るハミルトン:敗北が僕を強くする」を正当化するための、6ページにわたる特集記事の執筆を任されることになった。

 それだけでなく、同じ特集記事は目次では「アイスマン到来……独占分析:キミがいかに逆境を克服し、チャンピオンを手にしたか」と題されて発売された。

 他のページ構成などの”魔法”のおかげで、この特集記事はまさに両方の要件を満たしたものになった。

 もちろん、予想に反してチャンピオン争いに加わったフェラーリのドライバーは、ライコネンだけではない。1964年のチャンピオンであるジョン・サーティースは、シーズン前半を終えた段階でランキング7番手。そこから勝利と表彰台を積み重ね、大逆転で王者に輝いたのだ。

バクーは一時的な失敗だった。マクラーレンなら大丈夫:エド・ハーディ

 同僚たちからは、「以前にはもっと奇妙な出来事があった」とか、「ライコネンは、遅れているからと言って軽視できない人がいるということを証明した」とか、「今回の”誰か”は、史上最高のドライバーだ」とか、そういう話が盛んに聞かれる。

 まあそれもその通りだが、ここ2戦に限って勢力図が変わっただけだ。2戦でシーズンが終わるわけではない。直近の記憶が強く印象付ける……これは、現代社会の大きな問題だ。何ヵ月、何年にも及ぶデータを無視し、最近の出来事だけを絶対的な事実だと思い込んでしまう。

 角田裕毅は、レッドブルに昇格後ここまで不振だというだけで、F1での基準に満たないというレッテルを貼られてしまった。ニック・デ・フリーズは、イタリアGPにウイリアムズから代役参戦していきなり入賞し、その後アルファタウリのシートを掴んだだけで、将来のレッドブルのドライバー候補として期待された。またオランダGPでノリスがリタイアしたことで、ピアストリのタイトル獲得は決まり! そんな論調が蔓延した。

 私が言いたいのは、マクラーレンとそのドライバーたちが、今シーズンここまで、アゼルバイジャンのようにポイントを逃したことは一度もなかったということだ。

 フェルスタッペンが逆転でタイトルを掴み取るためには、マクラーレン勢がほとんどのレースで表彰台を逃す必要がある。しかしピアストリとノリスが、表彰台を逃し続けるとは考えにくい。しかも残りのグランプリの多くは、マクラーレンが得意とするであろうタイプのサーキットで開催される。

 マクラーレンのふたりが揃ってタイトル獲得を逃すということは、やはり考えにくい。

大逆転には絶対的なサポートが必要。角田の輝きが求められる時:田中健一

 残り7戦とスプリント3レース。フェルスタッペンが全て優勝したとして、ピアストリが全て2位になれば、52ポイントしか縮まらない計算となる。つまりフェルスタッペンには、既に自力でチャンピオンを獲得するチャンスは残っていない……つまり野球のペナントレースでいえば、マジックが点灯している状態ということになる(厳密にはノリスがいるため、マジック点灯とはならないだろうが)。

 そんな状況を打ち砕き、逆転でのタイトルを目指すためには、フェルスタッペンには強力な援軍が必要だ。それは角田裕毅に他ならない。

 角田はレッドブルに加入後、厳しい戦いを強いられてきた。前戦アゼルバイジャンGPでは6位に入ったが、これがレッドブルでの最上位である。

 6位という成績は、レッドブルのドライバーとしてはまだまだ物足りないものである。しかし今回の角田の働きは、フェルスタッペンが大逆転チャンピオンを目指す上では非常に大きかった。マクラーレンのノリスを抑え切ったからだ。マクラーレンを抑え込むこと……それはつまり、マクラーレンから”ポイントを奪う”ことに他ならない。

 今後も角田が、マクラーレンを抑え、彼らからポイントを奪うことができれば、フェルスタッペンが大逆転を決める可能性はグッと高まる。

 仮にフェルスタッペンが全戦優勝し、角田が全戦2位、ピアストリが全戦3位だった場合、フェルスタッペンはピアストリとの差を76ポイント縮めることができる。つまり、レッドブルの”チーム”としては、自力でのチャンピオン獲得が可能であるわけだ。

 角田が速さを見せることができれば、それだけフェルスタッペンがチャンピオンになれる可能性が高まるということ。そしてフェルスタッペンやマクラーレンの近くを走ることができれば、マクラーレンにプレッシャーをかけ、何らかのミスを誘うこともできるはずだ。

 フェルスタッペンはこれまで、チームメイトとの差が大きく、1対2でライバルに太刀打ちするということも多かった。そういう形で孤立させないよう角田が近くを走ること……その重要性はものすごく高いと言える。

 2021年、フェルスタッペンは最終戦での激闘の末、ハミルトンを下して初のF1ワールドチャンピオンに輝いた。このレースでハミルトンを下せたのも、チームメイトのセルジオ・ペレスが必死に押さえ込んだ場面があったからだ。他のレースでは、角田ら姉妹チームのアルファタウリの面々も、フェルスタッペンをサポートしたのだった。

 角田には、そういう”大切な”役割を果たすことが期待されている。

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