最新エンタメ情報が満載! Merkystyle マーキースタイル
名作「ズートピア」1作目の魅力とは? 差別や偏見…社会問題に切り込み“エンタメ性”も見事に両立

名作「ズートピア」1作目の魅力とは? 差別や偏見…社会問題に切り込み“エンタメ性”も見事に両立

映画「ズートピア」より
映画「ズートピア」より / (C) 2025 Disney

ディズニー・アニメーション映画最新作「ズートピア2」が12月5日に日本で劇場公開スタート。全米などでは、一足早く11月26日に公開され、初週末5日間の興行収入が約5億5600万ドル(日本円で約866億2480万円※1ドル155.8円計算)を突破。ディズニー・アニメーション映画史上最高の世界オープニング記録となった。今回は、その人気を生み出した第1作「ズートピア」の魅力に迫る。(以下、ネタバレを含みます)

■アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞

2016年公開の「ズートピア」(ディズニープラスで配信中)は、全世界で10億ドル以上の興行収入を記録。これを思うと続編の勢いのすごさがよく分かるが、第1作は第89回アカデミー賞で長編アニメーション賞に輝く評価を得た。

服を着て、2本足で歩く動物たちが登場する本作の舞台となるのは、肉食動物も草食動物も一緒に暮らす大都会・ズートピア。「誰でも、何にでもなれる」を宣言する希望の街だ。

そこから340km離れた街に生まれたウサギのジュディ・ホップスの夢は、ズートピアの警察官。「誰でも何にでもなれる」といえど、小さなウサギが警察官になった例はまだなく、9歳のときに劇で発表するも、同じ街の動物たちだけでなく、両親もかなわない夢だから、自分たちとニンジン作りをすればいいと言う。

しかしジュディは「この世界をもっとよくしたい」という信念で、夢を諦めずに、15年後、ズートピアの警察学校に入学する。

■警察官の夢に向かうウサギの主人公・ジュディ

ズートピアでは動物が生きる環境に合わせて、ツンドラ・タウン、サハラ・スクエアなど12のエリアがあり、警察学校ではそれらの特徴に合わせた訓練が行われる。猛烈な砂嵐に負けずに進み、高い氷壁に登るなど、ほかのゾウやサイ、トラなど大きな体の動物たちに対してジュディは落ちこぼれだった。大きな動物たちに合わせたトイレで便器に落ちてしまうという、ほんの一瞬の場面に至るまで、ジュディにとって過酷であることが映し出される。

この諦めずに警察官になろうとするジュディの頑張りは応援したくなり、十分にドラマになりそうだが、ここまで上映開始からまだ10分足らず。ここから先がジュディの本当の夢への挑戦となる。

「ズートピア」場面写真
「ズートピア」場面写真 / (C) 2025 Disney

■楽しいエンタメでありつつ、現代社会の問題に切り込む鋭さ

“諦めなければ夢はかなう”ということをテーマとして、たくさんの動物たちが大きなビルが建ち並ぶ、文明が築かれた大都会でジュディの挑戦が描かれていくのは、アニメ映画としてエンターテインメント性が抜群だ。大きなカバは水の通路から出勤し、背の高いキリンはジューススタンドの注文品をエアシューターで受け取る。そんな擬人化された表現に小さな子どもたちはワクワクすることだろう。しかし、本作では成長していればしているほど突き刺さる“社会問題”に切り込む。差別や偏見だ。

ジュディは9歳のとき、持ち前の正義感を発揮して恐喝を注意したキツネのギデオンに肉食の恐ろしさを見せつけられるように鋭い爪で傷つけられたことがあった。そこからうっすらと浮かび上がっていた草食VS肉食の構図は、大都会のズートピアでは、より顕著なものとなっていく。

警察署への着任初日。その頃のズートピアでは肉食動物ばかり14匹が行方不明になる事件が起きていたのだが、署長であるスイギュウのボゴは他の屈強な署員たちに任務を振り分け、ジュディには駐車違反の取り締まりを命じた。警察学校を首席で卒業したジュディは自分も事件の捜査に加わりたいと申し出るが、かなわなかった。

小さなジュディへの差別と偏見。一方でジュディも差別、偏見を持っている。優秀な自分がする仕事ではないというのは、両親とのテレビ電話で「(違反切符係は)今だけなの」と答えたことや、駐車違反取締中に市民から暴言を吐かれて「私は本物の警察官、本物の警察官…」と自分に言い聞かせる場面からあらわになる。

それをグサッと早々に指摘したのが、のちに相棒となる詐欺師のキツネ、ニック・ワイルドだ。「理想を抱いた田舎ウサギがズートピアへ行くと決めた。“肉食と草食が仲良く暮らす街よ”と。けど残念だったな。仲良くないんだ。じゃ、警察官になる夢は?これも残念。違反切符係。おまけに誰も気にかけない」と。

そんなジュディは失敗と挫折を繰り返し、自分の中にあった職業だけでない差別意識に気付いて成長していく。そこには、ニックの存在が大きい。皮肉屋で、詐欺師として裏社会にも通じる情報網を持ちながら、実は心優しく、差別や偏見に抗わないが、率先して助長もしない。草食のジュディと肉食のニックが良き相棒として相互に作用していくのは、ズートピアの社会が目指すところとなる。

■ディズニー作品らしい映像美も圧巻

動物たちの楽園=ユートピアのはずが、本質的にはそうではなかった…。ただ、本作はその現代社会が抱える問題を深く、でも軽やかに描き出す加減が秀逸だ。差別や偏見に遭遇してきた大人には深く突き刺さりつつも楽しい見せ場に笑い、これから巻き込まれていくだろう子どもたちには楽しさの中に映し出される教訓として心に印象づける。

それらはアニメだからこそ楽しく描けるものでもあるだろうが、ディズニーが誇るアニメーションの技術の素晴らしさは本作でも光る。ジュディやニックをはじめ、動物たちの毛並みや表情、しぐさの愛らしい表現力。ズートピアという心躍る一面と暗い一面のある大都会の質感。動物たちの世界ながら、感情移入を可能にする没入できる世界観に仕上げている。

大人の映画ファンには、裏社会のボスが映画「ゴッドファーザー」(1972年)へのオマージュとなっていることにも引きつけられるに違いない。もちろん、ディズニー作品に多々あるように、他のディズニー作品のネタも多数登場する。

また、ディズニーといえば“ヴィラン”の存在だが、本作ではちょっとひねりが加わっているのもポイント。ネタバレとなるので言及は差し控えるが、そういった構成も面白さを増している。

日本語吹替版では、ジュディを俳優の上戸彩、ニックを人気声優の森川智之が務めている。上戸はジュディの真っすぐさをうまく出していて、ディズニーやマーベル、ピクサー作品で多くのキャラクターを担当する森川は安定感があり、そんな2人の軽妙なやりとりが生き生きと物語を盛り上げているのも魅力の一つだ。

◆文=ザテレビジョンシネマ部
「ズートピア」キービジュアル
「ズートピア」キービジュアル / (C) 2025 Disney


あなたにおすすめ