日本で学ぶ留学生にとって、日本文化に触れる機会は多く語られるものの、実際に体験として味わえる場は限られているのではないでしょうか。そんな中、愛知県にある名古屋商科大学で、俳句を通じて日本文化と向き合う取り組みが行われました。俳句というと敷居の高い伝統芸能のようにも感じますが、自然を観察し、感じたことを短い言葉にまとめる体験は、国籍に関係なく学生たちの好奇心を刺激したようです。
当日は、学生たちが深呼吸で気持ちを整えるところから始まり、外の空気を感じながら自然を観察して俳句のテーマを探していきました。写真を撮ったり、季節の移ろいを眺めたりと、それぞれが自分のペースで感性を広げていく様子がよく伝わってきます。国の文化や言葉の違いからくる視点の差が、作品に独特の彩りを生み出していました。
さらに、作品を発表し合う時間や、和菓子を味わう時間もあり、日本の文化を「体験」として受け止められる内容になっていたように感じます。どの学生も、言葉にするむずかしさと面白さを楽しみながら、穏やかな空気の中で交流を深めていました。
背景には、世界中の留学生が集まる同大学ならではの環境があります。学ぶ仲間の文化が異なるからこそ、こうした小さな体験が新しい気づきにつながるのだと感じさせられる出来事でした。
深呼吸から始まる俳句づくり。自然を歩き、言葉を探す時間

俳句体験は、まず “心を整える” ところから始まったそうです。気持ちを落ち着かせたあと、学生たちは外の空気を感じながら自然を観察し、俳句のヒントになりそうな景色や季節の気配を探していきました。

鳥の目・虫の目といった視点を意識しながら、木々の揺れ、池の光、風の温度など、普段は流してしまいがちな細かな変化に目を向ける姿が印象的です。スマートフォンで写真を撮る学生もいれば、静かに立ち止まって風景を眺める学生もいて、それぞれが自分の感覚に向き合いながらテーマを探していました。
教室に戻ってからは、感じたことを短い言葉にまとめていく作業へ。留学生にとって季語の選び方は難しさもあったようですが、自分の国の自然や文化を思い出しながら季節感をつかもうとする姿はとても新鮮に映ります。
完成後の発表では、表現の違いが作品にしっかりと現れ、日本人学生の視点と留学生の視点が交差していくような面白さもありました。たとえば、「青葉の庭 池に座る子 鯉に餌を」といった一句からは、穏やかな時間の流れがそのまま浮かび上がるようです。
創作後には和菓子の試食会も行われ、季節の味わいを楽しみながら自然と会話が生まれ、学生同士の距離がぐっと縮まるひとときとなりました。
文化を“体験”として学ぶ。国際学部が大切にしている姿勢

名古屋商科大学には世界中から多くの留学生が集まっています。その環境の中で、国際学部が重視しているのが「文化を知識として学ぶだけでなく、体験を通じて理解する」という姿勢です。今回の俳句体験イベントもその考え方に沿ったもので、日本らしい表現に触れながら異文化理解を深めてほしいという思いが込められています。
俳句づくりは、一見すると日本語に慣れていない留学生には難しく感じられるかもしれません。しかし、自然を観察し、季節を感じ、短い言葉にまとめていくプロセスは、文化を体でつかむような学びにつながります。学生たちが自身のバックグラウンドを生かしながら季語を選ぶ姿は、多様性があるキャンパスだからこそ生まれるものだといえます。
また、異なる文化を持つ学生同士が作品を発表し合う場は、単なる語学学習にとどまらず、「どう感じたか」を共有するコミュニケーションの場にもなっていました。視点や表現の違いに触れることで、新しい気づきや考え方が自然と育まれていくのも、この学部ならではの魅力です。
国際学部が日頃から大切にしている、“体験と対話を通じて学ぶ” という教育方針が、この小さな文化体験の中にも息づいているように感じられます。
