
マダガスカルといえば、ユニークな動植物が数多く暮らす“生物多様性のホットスポット”として知られています。
しかし、そこに棲むネズミたちが、森の未来を担う意外な役割を果たしていたことが、京都大学の研究グループによって初めて明らかになりました。
彼らが目撃したのは「種子を土に埋めて将来のために“貯蓄”するネズミ」の姿。
この行動は、ネズミやリスなど齧歯類(げっしるい)によく見られるものですが、マダガスカルの森で観察されたのは史上初です。
研究の詳細は2025年11月30日付で科学雑誌『Biotropica』に掲載されています。
目次
- 貯食ネズミは「森の作り手」となる
- 発見されたマダガスカルの貯食ネズミ
貯食ネズミは「森の作り手」となる
森の中でネズミやリスが木の実や種子を集め、あちこちに埋めておく「ばら撒き貯食(ちょしょく)」は、世界中の森林で知られている行動です。
この貯食行動には大きな意味があります。
ネズミたちは厳しい季節に備えてエサを地中に貯めますが、すべてを掘り返して食べるわけではありません。
掘り返されずに残った種子はやがて芽を出し、森の新しい命となります。
つまりネズミは「種子散布者」として、森林の再生や多様性維持に重要な役割を果たしているのです。
ですが、アフリカ大陸の東に位置するマダガスカル島では、この“森づくりネズミ”の存在が長年疑問視されてきました。
なぜならマダガスカルは独自の動植物相をもち、20種以上の固有種ネズミが暮らしているものの、彼らの貯食行動を記録した研究はこれまで一つもなかったのです。
「本当に種子を埋めるネズミはいるのか?」
この問いに答えるべく、研究チームは、マダガスカル北西部のアンカラファンツィカ国立公園で現地調査を敢行しました。
2023年11月から2024年4月まで、果実をつけた樹木53本の下に自動撮影カメラを設置し、計19種の植物の種子や果実がネズミに持ち去られる様子を徹底的に観察したのです。
発見されたマダガスカルの貯食ネズミ
調査の結果、マダガスカル固有種のオオアシナガマウス(Macrotarsomys ingens)とフデオアシナガマウス(Eliurus myoxinus)が、樹木の下の果実や種子をくわえて持ち去る姿が数多く映像に残りました。
とくにオオアシナガマウスは、19種中16種もの植物の種子や果実を持ち去る“主役”ぶり。
その中には、調査地で最も大きな種子をもつ植物も含まれていました。

さらに、持ち去られた種子の一部は、実際に地表近くへ埋められて「貯食」されていたのです。
この発見は、これまで“キツネザル”などの霊長類が中心と考えられてきたマダガスカルの種子散布システムに、ネズミ類という新たな主役が加わる可能性を示します。
近年、マダガスカルの霊長類は森林伐採や火災によって絶滅の危機にさらされていますが、ネズミ類は個体数が多く、環境が劣化した森でも生き残るタフさを持っています。
森の未来を託せる新たな“担い手”が見つかったと言えるでしょう。
今後は、埋められた種子が実際にどの程度芽を出すのか、他の動物と比べてどのくらい種子散布者として貢献しているのかを調べる予定です。
こうした研究は、生態系の復元や森林保全にも大きなヒントを与えてくれます。
参考文献
マダガスカルで“種子を埋めるネズミ”を初確認―森を作る担い手としての新たな可能性―
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2025-12-04
元論文
Seed and Fruit Removal by a Native Rodent in a Seasonally Dry Forest in Northwestern Madagascar
https://doi.org/10.1111/btp.70134
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

