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山崎貴監督が分析する、J・キャメロン監督が“誰もが失敗すると思う題材”を成功させてきた秘訣「予想をはるかに超える」【「アバター」最新作公開記念特別連載】

山崎貴監督が分析する、J・キャメロン監督が“誰もが失敗すると思う題材”を成功させてきた秘訣「予想をはるかに超える」【「アバター」最新作公開記念特別連載】

2009年に3D映像革命を巻き起こし、現在も世界興行収入歴代1位に君臨するジェームズ・キャメロン監督の『アバター』(09)。その待望となるシリーズ最新作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』が12月19日(金)より公開となる。

最新技術をふんだんに投入した映像体験で、世界で空前のヒットを記録している本シリーズだが、最新作ではさらにスケールアップ!そこでMOVIE WALKER PRESSでは、日本を代表するトップクリエイターたちに「アバター」の凄さを語ってもらう特集連載を展開。
第1回は『ゴジラ-1.0』(23)で第96回アカデミー賞(R)視覚効果賞に輝いた山崎貴監督が「アバター」の魅力を徹底解説!映画界の頂点を極め、さらに映像技術の進化を追求し続ける巨匠キャメロン監督は、いったいなにを目指しているのか?シリーズを振り返りその魅力を解き明かしていきたい。
「アバター」はなにがすごいのか?山崎貴監督がその魅力を熱弁!
「アバター」はなにがすごいのか?山崎貴監督がその魅力を熱弁! / 撮影/河内彩


第1作で神秘の星パンドラに“アバター”として潜入した元海兵隊員のジェイク(サム・ワーシントン)は、ナヴィのネイティリ(ゾーイ・サルダナ)と恋に落ち、人類と戦う決意をする。2作目『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(22)では家族を築いたジェイクらが海へと戦いの場を移し、愛する者のために人類と対峙。侵略を退けることに成功するが、家族の命を奪われるという大きすぎる犠牲を伴った。そして最新作『ファイヤー・アンド・アッシュ』では、同じナヴィでありながらパンドラを憎むアッシュ族のヴァラン(ウーナ・チャップリン)が人類と手を組み襲来し、かつてない“炎の決戦”が始まる。

■「『アバター』の3Dは、スクリーンの向こうに広がる広大な世界を五感で体験をさせてくれる」

――山崎監督がはじめて『アバター』や『ウェイ・オブ・ウォーター』を観た時の感想をお聞かせください。

山崎「ジェームズ・キャメロン監督が次にどこへ向かっていくのかすごく期待していましたが、想像を絶する世界になっていた。星をひとつ作り上げてしまったんだと圧倒されました。『ウェイ・オブ・ウォーター』ではさらにクオリティが上がって、実際にパンドラで撮ってきたかのようなドキュメンタリー感をより強く感じましたね」
キャメロン監督が創り出した、圧巻のパンドラの世界
キャメロン監督が創り出した、圧巻のパンドラの世界 / Photo:『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』[c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.


――特に印象に残っているシーンはどこでしたか?

山崎「『アバター』ではジェイクがバンシー(イクラン)の岩山で崖から落ちるところですね。キャメロン監督は高い場所から落下する恐怖をあおることで、キャラクターに惹きつける吊り橋効果をよく使いますが、あのシーンは背筋が凍る恐ろしさと気持ちよさが同居して、一気にナヴィを好きになりました。『ウェイ・オブ・ウォーター』は“表現”ですね。巨大なトゥルクンとコミュニケーションを取るシーンなど水の映像はどれも現実の水を見ているようで、脳では映画だとわかっていても潜在意識が『本物だ』と騙される瞬間がありました」

――「アバター」シリーズは次世代の3D映画としても話題を呼びました。本シリーズの3Dのすごさはなんでしょうか?

山崎「それまで3D映画は、スクリーンからなにかが飛びだすことで驚かせていましたが、『アバター』ではスクリーンの向こうに広がる広大な世界を感じさせたんです。つまり映画館ごとパンドラの世界に没入させる。空中に浮かんだ岩々の間を自由に視点が移動したり、手前を飛ぶバンシーの奥にいくつもレイヤーを配するなど、フレーミングや画面構成はどれも3Dを意識しています。物語の構成や星の設定、シチュエーションなど映画のあらゆる要素が3Dに向かっているので、五感で3D体験をさせてくれるんです。その思いきりのよさはすごいですね」
「アバター」でしか体感できない3Dの要素を分析する山崎監督
「アバター」でしか体感できない3Dの要素を分析する山崎監督 / 撮影/河内彩


――このシリーズは主人公ジェイクを含むメインキャラクターにはパフォーマンスキャプチャ(俳優の体の動きや表情、台詞など演技全体をデジタルデータとして記録する技術)が使われています。

山崎「パフォーマンスキャプチャは芝居より身体能力に特化した使い方が多いなか、『アバター』は役者そのものが映っているように感じるレベルで、笑いや怒り、喜びや悲しみだけでなく、その裏にある複雑な想いまで汲み取れました。一つの到達点といってよいと思います。キャスティングも、芝居を加工しないことを前提にしたんでしょう。さらに『ウェイ・オブ・ウォーター』では、空中ではできない水中での表情や体の動き、その時に起きる水のアクションも自然に表現しようと水中パフォーマンスキャプチャを使っています。とにかく徹底していますね」
【写真を見る】『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の衝撃の水中撮影の様子!俳優には潜水しながら演技することが求められる
【写真を見る】『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の衝撃の水中撮影の様子!俳優には潜水しながら演技することが求められる / Photo:『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』[c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.


――ほかにもHDR(ハイダイナミックレンジ)やHFR(ハイフレームレート)など「アバター」シリーズには多くの映像テクノロジーが使われています。

山崎「ダイナミックレンジ(明暗の差)を広げて、まぶしい光から暗闇まで表現するHDRを使うと、人が現実世界で見ているものに近い状態をスクリーンに映しだせます。水しぶきの飛沫などを映画の標準となる24fpsのフレームレート(動画が1秒間に何枚の画像で構成されているかを示す単位)で表現するとブレて白っぽく見えてしまいます。人間の目は60fpsくらいと言われていますが、それに近い48fpsのHFRでは限りなく水滴の形に見えるんです。これらの技術を使うことで『自分はいまパンドラに居るんだ』と騙されてしまうわけですね(笑)」

■「キャメロン監督は最高の技術者でありながら、それをすべて物語を語るために使っている」

――ディズニープラスではシリーズのメイキングドキュメンタリー、「炎と水―メイキング・オブ・アバター」なども配信されていますが、現場の様子を観て感じたことや発見はありましたか?

山崎「ワイヤーで吊ったカメラを自由に操るスパイダーカムを応用した、アイライン・システムを使っていました。3メートル近いナヴィと一緒に行動する人間の少年、スパイダーの視点を担保するため、キャプチャ用に撮った俳優たちの顔の映像をワイヤーでナヴィの頭の高さにセットしたモニターに映すんです。しかもナヴィの動きに合わせて、自由にモニターを移動させることができる。方法としては理にかなっていますが、視点の目安のために高価な機材を使っていたので驚きました。表現したいものに対しては、惜しみなく予算を使っていますね。もっともキャメロン監督は『アビス』の時にキャストの表情が見える水中マスク作りに取り組んで優秀な水中マスクを開発してしまうなど、映画のためにこの世にない技術を作り出してきた人ですから(笑)。普通なら無理だと諦めるようなところも妥協しない姿勢は尊敬します」
「アバター」でしか見たことがない撮影方法だらけ
「アバター」でしか見たことがない撮影方法だらけ / Photo:『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』[c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.


――現場での俳優やクルーとのやり取りなどはどう映りましたか?

山崎「技術を重視する人なのに、物語に対して真剣に向き合っていると感じました。すべての技術を、語りたい物語を伝えるために使っている。技術的な方向に行ってしまう監督もいれば、技術は気にせず物語にフォーカスする監督もいますが、キャメロン監督は最高の技術者でありながら、それをすべて物語に向けているところは見習いたいですね。おそらく現場では厳しい人だと思いますが、あらゆる困難を乗り越えて正しいと思ったことをやり通す人なんでしょう」

――本シリーズはキャメロン監督のオリジナルストーリーですが、物語作家としてキャメロン監督をどう見ていますか?

山崎「どんな観客も共感させるところがすごいですね。キャメロン監督の作品は、そこで起こる出来事がどれも切実なんですよ。見たこともない風習や文化、考え方を持った人たちのお話なのに、それに対して『そうだよな』と納得できる物語を作ることができる。普遍的な骨組みのうえに新しい要素を付け加えながら物語を作っているから、世界中の人から信頼されているんだと思います」
最新技術をふんだんに使いつつも、描かれるのはキャメロン監督らしい家族の物語
最新技術をふんだんに使いつつも、描かれるのはキャメロン監督らしい家族の物語 / Photo:『アバター』[c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.


――エネルギー問題、環境問題など現実と地続きの設定はいかがでしょう?

山崎「地球とは違う世界観で話が進むので忘れがちですが、観たあとに現実とリンクしていたと気づかされるんです。声高に『自然を大切に!』と叫ぶ映画だとお説教のようで鼻につきますが、『アバター』のような形であれば『自然を大切にしなきゃいけない』という気持ちが自然にわき起こる。道徳的なこともエンタメのなかで心躍らせながら伝えれば、一時でも道徳的な人間になれるという忍ばせ方。それが非常にうまいキャメロン監督は、人類が古来から紡ぎ上げてきた寓話という技法の優秀な継承者だと思います」

■「キャメロン監督は、みんなが失敗すると思った題材をすべて成功させてきた」
最新作で登場する、同じナヴィでありながらパンドラを憎むヴァラン
最新作で登場する、同じナヴィでありながらパンドラを憎むヴァラン / Photo:『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』[c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.


――最新作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』にどんなことを期待していますか?

山崎「映像面では、HFRで火がどのくらい現実的に描かれているかですね。火はすごい早さで変形するので、3Dと馴染みがよくないんですよ。48fpsだと炎のエッジが担保された状態で、うまく空間から切り取られているんじゃないでしょうか。またトレーラーを観ると、キャラクターの表情のクオリティがもう一段上がっているように感じました。いろんな人たちが、様々な想いを抱えていることが表情から伝わってくる。より繊細になったパフォーマンスキャプチャが、物語をより強めているんじゃないかと期待しています。ストーリー面では、この世界を憎むアッシュ族の登場で新たな三つ巴の構図になりそうなので、そこでなにが起こるのか楽しみですね。同時に地球も追い詰められているので、トレーラーで描かれている、マスクなしで生きられるようになったスパイダーを通し共存の方向に向かっていくのかもしれません。ドラマ面でも信頼できるキャメロン監督なので、全5作という大河ドラマにしただけはある世界を見せてくれると思います」

――それでは、「アバター」シリーズ一番の魅力はなんだと思いますか?

山崎「やはり誰も行ったことのない世界に連れて行ってくれるところですね。おそらくキャメロン監督は、皆をパンドラに連れて行きたいんだと思います。旅行に行ってその場で景色を見るのと同じ感覚で、パンドラでの出来事を実際に目の前で見ているように体験してもらいたいんでしょう。最新の映像技術も、物語への没入感を高めるためになにが必要かにフォーカスして取り入れている。だから観る側も『自分はパンドラにいるんだ』と潜在意識で感じてしまうんです。とても正しい使い方ですね。ただしHFRひとつとっても、フレーム数が倍になるのでその分のレンダリングが必要になります。これら最新技術をすべて取り入れ映画を作りあげるのは、すごい苦労だったと思います。それを乗り越え作り続けているキャメロン監督には本当に頭が下がります」
『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』は12月19日(金)公開!
『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』は12月19日(金)公開! / [c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.


――最後に、山崎監督にとってジェームズ・キャメロン監督とはどんな存在なのでしょう。

山崎「キャメロン監督がVFXクルーの時代から、低予算とは思えないVFXを作るおもしろい人間がいると当時の雑誌で読んでいたので、監督デビュー前から知っていたんですよ。それが『ターミネーター』でスターダムにのし上がり、人気監督になっていきました。そんな姿を見たことが監督を目指したきっかけでもあるので、一方的に尊敬の念を抱いています。キャメロン監督が本当にすごいと思うところは、売れ線を狙うのではなく、誰もいないところに行き皆をそこに呼び寄せることができることだと思います。

『タイタニック』の時に、誰でも知っている船が沈没する物語をどうやっておもしろい映画にするんだろうと思っていました。しかし結果は、最後にカタルシスが押し寄せるキャメロン監督らしい作品になっていました。『アバター』も最初にビジュアルを目にした時に『青いナヴィに感情移入できるだろうか?』と心配でしたが、予想をはるかに超える作品でした。最初はみんなが失敗するんじゃないかと思うような難しい題材を選んで、それを全部成功させてきた。毎回それだからすごいですよ。そんなキャメロン監督が『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』でなにを見せてくれるのか、いまからワクワクしています」

取材・文/神武団四郎
配信元: MOVIE WALKER PRESS

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