多くの広島ファンがこう思っているに違いない。「まさかここまで活躍するとは…」。
背番号96で再出発した中村奨成が今季、強い存在感を放っている。9月23日の巨人戦では、戸郷翔征の直球を左翼席上段へ運ぶ9号2ランを放ち、さらに中堅への安打を含む猛打賞を記録。これで巨人戦では6本目のアーチとなり、雨のマツダスタジアムに詰めかけた3万2094人の観客を沸かせた。
中村は9月23日終了時点で99試合に出場し、打率2割7分6厘、9本塁打32打点。OPS.753は首位打者の小園海斗の.747を上回りチームトップで、守備指標UZR7.5もチーム1位。総合評価のWARは3.1と、ヤクルトの主砲・村上宗隆をも凌ぐ数字を残している。後半戦は主に「2番・センター」で起用され、攻守の要として確かな地位を築きつつある。
もっとも、その歩みは決して順風満帆ではなかった。ドラフト1位で入団後は伸び悩み、背番号22から96への変更を余儀なくされるなど崖っぷちの時期も経験した。しかし丸刈りで臨んだ再出発のシーズンに、自らの力で道を開拓。ファンからは「現役ドラフトに出さなくて本当によかった」「来季は背番号一桁も夢じゃない」と評価の声が相次ぎ、将来の大器としての期待はかつてないほど高まっている。
今、思い出されるのは2017年夏の甲子園だ。当時、清原和博が持つ一大会5本塁打の記録を塗り替える6本塁打を放った中村に対し、野村克也氏は「高めに強いのはホームランバッターの絶対条件。この子はそれができている」と断言し、その将来性に太鼓判を押していた。あれから8年、その言葉はいよいよ現実味を帯びてきた。崖っぷちから這い上がった背番号96の姿に「将来の山本浩二を夢見たい」という声が上がるのも大げさではない。中村は、広島カープの未来を背負う存在へと確かな歩みを重ねている。
(ケン高田)

