
アメリカのテネシー大学(UTK)で行われた研究によって、ショッピングモールなどで子どもたちの前に現れる「プロのサンタクロース」849人を調べたところ、典型的な白ヒゲの陽気なおじさん像に当てはまらない人でも、工夫と情熱次第でサンタ役を立派に“天職”として全うできることが示唆されました。
これは、私たちが「この仕事にはこういう人が向いている」と何となく信じているイメージが、本当に正しいのかを問い直す結果と言えるでしょう。
研究内容の詳細は2025年10月30日に『Academy of Management Journal』にて発表されました。
目次
- サンタが天職だと思った人々
- 849人のプロサンタを分解して見えてきた3つの物語
サンタが天職だと思った人々

「どうせこの仕事は、“ああいうタイプ”の人がやるものだろう。」
そう感じて、一歩を引いたことがある人は多いと思います。
営業なら「社交的でおしゃべりな人」、教師なら「面倒見のいい人」、管理職なら「声が大きくて決断力のある人」です。
私たちはつい、職業ごとに“理想のキャラ設定”を頭の中で作ってしまいます。
サンタクロースは、その中でも最強クラスの「理想像」を持った仕事です。
みなさんが思い浮かべるサンタの条件を並べると、おそらくこうなるはずです。
白髭のぽっちゃりした赤い服が似合う陽気なおじいさん──論文もほぼ同じリストを「サンタのプロトタイプ(典型像)」として挙げています。
実際、アメリカには「本物のヒゲ」を持つサンタを特に重視する団体まで実在し、研修やイベントを通じてその理想像を守り続けているのです。
一方で、仕事を「ただの仕事」ではなく「天職」と感じる感覚もあります。
論文では、これを calling(コーリング:この仕事に個人的・道徳的・社会的な意味を強く感じること) と呼びます。
「サンタをやるために生まれてきた」と本気で思っている人にとって、サンタの仕事はアルバイトではなく、人生の中心に近いものになります。
そこで今回研究者たちは、そんなサンタを天職だと感じ、プロサンタとして活動している人々が、いったいどんな思いでサンタを演じているかを調べることにしました。
849人のプロサンタを分解して見えてきた3つの物語

まず研究チームは、849人分のプロサンタたちの意見や身体情報を集めました。
ここで言うプロサンタとは、サンタ学校やサンタ団体など「サンタ業界」を通じて仕事を得ている人々で、サンタ業を有償・無償にかかわらず少なくとも1シーズン以上行ってきた人々を指します。
つまり「自称サンタ」や「今日アルバイトでたまたまサンタになった」というものではなく、複数年(人によっては何十年も)本気でサンタ業を続けている方々と言えます。
さらに、そのうち53人にオンラインなどでインタビューを行い、「どうしてサンタになったのか」「サンタとしてどう生きているのか」を、一人あたり1時間前後かけて丁寧に聞き取りました。
すると研究チームはプロサンタたちの物語が3つのパターンに分かれていることに気づきました。
1つ目は「プロトタイプ・サンタ」です。
白人男性で年配、ぽっちゃり体型に本物の白ヒゲという、絵に描いたようなサンタたちです。
彼らは「昔から白ヒゲの優しいおじいさんと言われていた」「近所の人に『あなたは絶対サンタをやるべきだ』と言われて自然と始めた」と語り、自分の外見と性格がそのままサンタに“シンクロ”している感覚を持っています。
このタイプのサンタは、シーズン以外でもクリスマスにちなんだ服や小物を身につけ、普段の生活でも「サンタらしさ」を保とうとします。
子どもに突然声をかけられても困らないように、いつでも優しく振る舞うよう心がけている人も少なくありません。
研究チームは、こうしたスタイルを「年中サンタとして生きる連続的なコーリング(天職感)の実践」と位置づけています。
2つ目は「セミ・プロトタイプ・サンタ」です。
年齢や雰囲気はサンタらしいけれど、本物の白ヒゲがない、あるいは健康のために体重を増やせない、といった人たちです。
彼らはしばしば、「自分は本物のサンタなのか?」という“ニセモノ感”や、英語で言うimpostor感(自分は偽物だと感じる心)に悩みます。
そこで彼らが編み出したのが、「物語でズレを埋める」工夫です。
たとえば、痩せているサンタは「健康サンタ」という設定を作り、「今年はダイエットを頑張ったからスリムなんだよ」と子どもに話します。
研究チームはこれを「エピソード型のコーリングの実践」と呼んでいます。
3つ目は「非プロトタイプ・サンタ」です。
これは女性サンタ、車いすのサンタ、黒人サンタなど「サンタ像から大きく外れている人たち」です。
彼らの多くは露骨な拒絶を経験してきました。
それでも彼らはサンタをやめませんでした。
自分はこの仕事に呼ばれているという天職だという感覚――コーリングを感じていたからです。
興味深いことに研究では、非プロトタイプ・サンタ」は外見的にマッチしている「プロトタイプ・サンタ」と同様に、クリスマス以外の時も「サンタらしさ」を保とうとしていることが判明しました。
研究者たちは、これをサンタが天職であるという思いに支えられていると述べています。
そして結果的に彼らは外見の振りを気合で補い、今もプロサンタの位置に留まっています。
サンタ業界は厳しい世界です。
ショッピングモールや病院・施設などからの依頼なしに、サンタの服を着て道でパフォーマンスをすることは誰でもできます。
しかし今回の研究で扱われたのは、そうした自己流のサンタではなく、依頼を受けて仕事としてサンタをしている「プロサンタ」だけです。
非プロトタイプ・サンタと言われる人々は、そんな厳しいサンタ業界を今も熱意と情熱で生き抜いていたのです。
もちろん「外見的にみるからにサンタ」という感じの人が有利なのは間違いないでしょう。
しかし外見が合わなくても、サンタ業界で成功しているプロサンタたちがいるのは事実です。
研究者たちも「情熱を注げる仕事なら臆せず飛び込んでみるべきだ」とコメントしています。
もちろん、この研究の対象はアメリカで実際にプロサンタとして活動している人たちのみです。
サンタに向いていないと言われて諦めてしまった人や、サンタ業に興味を失って別の道に進んだ人たちの声は集計されていません。
それでも、この研究は天職の本質について重要な示唆を与えてくれます。
人々が自分の仕事に見出す意味は、外見的な条件よりも内面的な物語によって支えられている可能性が高いのです。
研究者たちは今後、こうした「役割への没入」が他の職業や社会環境でどのように起こるのかも調べる余地があると述べています。
元論文
Who’s Behind the Red Suit? Exploring Role Prototypicality within Calling Enactment among Professional Santas
https://doi.org/10.5465/amj.2023.1161
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

