「言語」と「鳴き声」との共通フォーマットが存在するかもしれない

今回の研究により、人間の脳がチンパンジーの声を特別扱いしていることが明確な形で示されました。
声の理解というと人間固有の高度な機能のように思われがちですが、実はその神経基盤の一部は人類が出現する以前から存在していた可能性があります。
研究チームは、人間とチンパンジーの声の構造には共通の祖先(数百万年前)の特徴が受け継がれている可能性があると指摘しています。
つまり私たち人間の脳には、進化の過程で培われた音声認識の“ひな型”のようなものが残されており、それが自分たちの声に似た音を聞くと自動的に作動するのでしょう。
この発見は、人間の音声コミュニケーションの起源を探る上で新たな視点を提供します。
人間と類人猿に共通する音声処理能力が確認されたことで、それが言語の出現以前から脳内に存在した基本機能である可能性が示唆されます。
極端にいえば、言葉を持たない太古の時代から、私たちの脳には仲間の声(あるいはその原型となる泣き声や叫び声)を聞き分ける“仕組み”が備わっていたのかもしれません。
さらに本研究の知見は、乳幼児がどのように声を認識し言語を習得していくのかという謎を解明する手がかりにもなり得ます。
例えば胎児が母親の声をお腹の中で聞き分けられるのはなぜか、といった現象についても、今回明らかになった脳の性質から説明がつく可能性があります。
声エリアが反応する音のパターンが決まっているとすれば、その“周波数の窓”に合致する声は生まれる前からでも脳に届きやすい、という仮説も導けるでしょう。
もしチンパンジーの鳴き声と人間の言語の共通点を詳細に理解できれば、真の意味で言語の本質に迫ることができるかもしれません。
元論文
Sensitivity of the human temporal voice areas to nonhuman primate vocalizations
https://doi.org/10.7554/eLife.108795.1
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

