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「野球選手に再挑戦の場を与えたい」アスリートの血糖値を解析してパフォーマンスを向上させる“血糖値おじさん”の大きな理念

「野球選手に再挑戦の場を与えたい」アスリートの血糖値を解析してパフォーマンスを向上させる“血糖値おじさん”の大きな理念

SympaFit代表・加治佐平
村瀬秀信氏による人気連載「死ぬ前までにやっておくべきこと」。今回は血糖値のデータを解析し、アスリートの最適なパフォーマンスを引き出す「SympaFit」の開発者である加治佐平氏をインタビュー(前編)。勝負の世界に生きるアスリートを支える彼の大きな理念とは?

血糖値データでメンタル状態を可視化

11月。沖縄──。

今年、4年目を迎えた「ジャパンウィンターリーグ(JWL)」。「陽の目を見ない場所に光を」「野球界の登竜門を沖縄に」と理念を掲げ、日本で初めての長期トライアウトとしてスタートしたこのJWLのグラウンドには、今年もこの男の姿があった。

加治佐平。株式会社SympaFit代表取締役。「血糖値」のデータを解析し、アスリートの最適なパフォーマンスを引き出す「SympaFit」の開発者にして、研究者。またの名を“血糖値おじさん”。

革新的かつ意欲的な取り組みで、年々注目度を増しつつあるJWLにあって、加治佐は初年度からバイタルコーディネーターとして招かれ、重要なミッションを担う。

「このJWLの“ウリ”は、日本で初めての22日間という長期にわたるトライアウトです。スカウトは遠くに居ても参加選手の詳細な状態をデータでチェックできる仕様で、ラプソードやブラストモーションなどで得た回転数やスイングスピードなどのデータもありますが、僕がやっていることは、アスリートの“血糖値”を測定して、メンタルを可視化すること。
『緊張しやすい』『プレッシャーに弱い』など“メンタル”というのは、いわゆる自律神経。緊張や興奮でアドレナリンが分泌されると血糖値に大きな関連性があることを実証実験により明らかにしました。
JWLでは参加選手に血糖値の測定器を装着してもらい、22日間の開催期間中、ずっと血糖値のモニタリングをしながら、食事の取り方や睡眠の質、試合前と試合中、試合後の緊張感や興奮度などを見ています。
ここまで長期間にわたり、アスリートのデータを採れるのは貴重な機会。ここに来て分かるようなことも、どんどん増えている感じですね」

チャンスで打席に入ったとき、大事な試合でミスした後、血糖値を見ればメンタルの状態も可視化できる。データで感情の状態を読み、管理することができれば、パフォーマンスの向上にもつながるということ。すでに加治佐が論文を書き上げ、特許も取っているというこの技術、スポーツ界にとって革命的進歩と言えよう。

死ぬ前にやっておくべきこと】アーカイブ

清原和博を監督に据えた「ワールドトライアウト」

「ワールドトライアウト2019」にて、清原和博監督と
この加治佐、ジャパンウィンターリーグに参加した2023年に現在のSympaFitを起ち上げているが、実はそれ以前からアスリートの血糖値データを採取していたことがある。

熱心な野球ファンの方なら覚えているであろう。’19年の秋。清原和博を監督に、野球漫画『MAJOR』の茂野吾郎をアンバサダーに起用して突如として起ち上がった「World Tryout」を。加治佐は、あの大会を開催したCEOであった。

「野球選手に“何度でも這い上がる”再挑戦の場を与えたいと、元阪神の田中聡さんと2人だけの組織で、情熱とアイデアだけを以て起ち上げたのが『ワールドトライアウト』でした。
従来のトライアウトとは違い、枠組みに囚われずNPB、独立リーガーや一般に埋もれた選手、浪人した選手などのNPBや海外への挑戦だけでなく、日本でプレーしたい海外の選手も呼んで、真剣勝負の中でアピールできる場を作ることが理念でした。
月間MVPになった元西武の高木勇人投手がメキシコリーグに挑戦したり、あの大会に参加した渡辺明貴投手も、その後DeNAに育成選手として入団するなど一定の成果は得ましたが、’21年の第3回を最後にそれ以降は行われていません」

大きな花火だった。球界初復帰となる清原を監督に、多くの観客を集めて神宮で華々しく行われた第1回大会。メディアでも大きく扱われ成功したと思われたが、時を待たずして新型コロナが世界的に蔓延。メキシコへ行った高木勇人はリーグが中止となり、第2回以降の大会も球場での開催が叶わず、室内練習場での計測会という不本意な形で継続することができなくなった。

資金面でも、お客さんの入場料だけで賄っていた現実があり結果は大赤字。その多くは加治佐が経営していたベンチャー企業の株を売り払って補填したという。そこまでしてでもやり遂げる価値があったからだ。

失敗しても、躓いても、“何度でも這い上がることができる”。そのメッセージを伝えるため、世間に対し、胸がワクワクするような真剣勝負でインパクトを残すには、神宮を借りて大勝負をする必要があった。

ワールドトライアウトは世間的には一度きりの大きな打ち上げ花火だったのかもしれない。だが、それは決して無駄なことではなかったと言える。

「再挑戦の場を作るという大きな理念の一方で、僕自身の目的として、真剣勝負をする選手たちのバイタルデータを採るというものがありました。あのワールドトライアウトがアスリートに計測機器を付けて血糖値のデータを採った初めてのケース。
そこから本格的に血糖値の実証実験が始まり、現在につながっています。奇遇なことに、ワールドトライアウトをどうしようかと考えている時期にJWLの鷲崎一誠(代表)から『同時期のトライアウトで競合になってしまうのですが開催してよろしいでしょうか?』と連絡がありました。
聞けば僕らの目指す理念と同じ。『どうぞどうぞ。やってください。何でも協力します』と二つ返事でした。僕としては志を引き継いでもらったと思っていますよ」

(中編に続く)

取材・文/村瀬秀信

「週刊実話」12月18・25日号より

配信元: 週刊実話WEB

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