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「お前らは野球だけしとけばええんじゃ!」星野仙一さん、震災直後の“怒号”の真実––––元楽天戦士が誤解し続けた「闘将のリーダー論」

「お前らは野球だけしとけばええんじゃ!」星野仙一さん、震災直後の“怒号”の真実––––元楽天戦士が誤解し続けた「闘将のリーダー論」

2011年の東日本大震災直後、楽天イーグルスの監督だった星野仙一が選手に放った「野球だけしとけばいいんだ」という強い言葉。一部の選手は「冷たい」「理解できない」と感じ、深い誤解が残ったままシーズンが進んだ。しかし――あの言葉には、誰も知らなかった“真の意図”があった。

平石洋介氏の新著『人に学び、人に生かす。』より一部を抜粋、編集してお届けする。

「本心なわけないやろ!」

少し話が逸れるが、この本を読み進めてもらえれば、僕が気になったことは見過ごせない、年上、年下お構いなしに、その思いをぶつけてしまう、というシーンにたびたび出会うと思う。これは僕の性格である、ということを理解してほしい(笑)。

さて、その性格はあの星野さんに対しても同じだった。

初めての出会いからは想像できないくらい、星野さんとの距離は縮まっていた。きっかけは、おそらく2013年の試合でさせてもらったある進言だったと思っている。

その試合、星野さんはバントをするために代打を出そうとしていた。ただ、その選手はバントがうまくなかった。迷った末、思い切って星野さんに歩み寄った。

「バントなら森山(周)が一番うまいです」

そのときの森山は「代走のスペシャリスト」としてチームに欠かせない役割を担ってくれていた。もしかすると星野さんの中で「代走・森山」も想定しているかもしれない。

そう思い、話を続けた。

「このバントと、その後の森山の代走、(星野さんの中で)どっちが大事ですか?もしこのバントと思われるなら、森山を使ってください。森山となら僕、心中できます」

怒られるかもしれない、と思ったけれど「言わなければ後悔する」。星野さんは僕の進言を受け入れ、そして森山はバントを成功させてくれた。

以来、星野さんから声を掛けてもらい、食事に行くことも一気に増えた。

かつて持っていた「冷たい人」とはかけ離れた人間性に触れ、逆に「あの一言」の真意が気になった。そして、ある食事の席でのこと、さすがに勇気を振り絞り、でもストレートに星野さんに尋ねた。

「震災が起きたとき、監督は僕らに『野球だけしとけばいいんだ』と怒鳴られました。あれは本心だったんですか?」

どんな表情をされていたかは記憶にない。

でも即答だった。

「本心なわけないやろ!」

その言葉は、怒っているようにも、諭すような優しさを含んでいるようにも聞こえた。そして、「あの日」のことを話してくれた。

「チームを預かるトップとして、お前らの気持ちは痛いほどわかっていた。でもな、あのときはまだ、被害が起きたばかりで被災者の多くが連絡も取れない。

行方不明者も日に日に増えて、家も車も大切なものも津波で流されて、町は瓦礫の山で、被災地はどうにもならん状況や。そこに俺ら一軍、二軍の選手、スタッフ総出で行けばマスコミだってついてくる。話題にはなるし、被災者も喜んでくれるかもしれない。

……それで何になるんだ?俺たちが大人数で被災地に行って、本当に行かなければいけない人たちが行けなくなったらどうする?

ずっと滞在してボランティア活動ができるなら、行く意味があるかもしれない。でも、ずっとはいられない。俺らは野球をしなくちゃいけないんだ」

「上に立つ人間として、あのときは、ああすべきやと思った」

星野さんの言葉が放たれる空間は熱を帯びているように感じた。そして、再び「お前たちの気持ちは痛いほどわかっていた」と繰り返し、こう結んだ。

「あのときの俺の伝え方が正しかったのかはわからん。でも、上に立つ人間として、あのときは、ああすべきやと思った」

言葉がなかった。

それまで抱いてきた星野さんへの感情を悔いた。

それ以上に、自分を恥じた。

ずっと人と真剣に向き合うことを心掛け、実践してきたと思っていた。日本を揺るがす大災害によって視野が狭くなり、人の想いを汲み取り切れなかったのかもしれない。でもそれは言い訳だ。僕は単に「とんだ勘違いをしていた」のだ。

思い返してみれば震災があった直後、宮城に残っていたスタッフや家族はバスで避難をしていた。選手たちに安否確認を急がせ、どこに誰がいるのかを聞いて、リストを作り、迎えに行く。そのバスを手配してくれていたのも星野さんだった。

星野さんの本心を知ったあのとき、心に誓った。

「この人に、ついていこう」

それからというもの、僕は「星野監督」の想いを繋ぐことに努めた。

例えばあの日一緒にいた基宏や鉄平のように、僕と似た感情を抱いていた選手は多くいた。「でも、それは誤解だった」。そう伝えた。

もちろん、僕が星野さんの本心を伝えたところで、その誤解が解消されるわけではない。それでも伝え続けないといけないと思った。

「監督はお前のこと、こう思ってるぞ」

このときの僕は、「星野監督を信じてついていけば、このチームは必ず強くなる」。そう確信していた。確かに厳しい。「あの日」の対応ひとつをとってもそうだ。でも、「見えないところにいた監督・星野仙一」の思いは、血が通っている──。ただ、僕らには見えない、見せないだけだった。

2013年。

僕たちイーグルスは、悲願の日本一となった。野球ファンであれば、田中将大の大車輪の活躍を知るところだと思うが、星野監督のもと、心を奮い立たせたチームの勝利だったと思っている。

言葉ひとつ、行動ひとつ、振る舞いひとつ。

それだけでは見えないものがある。

星野さんのそれは、まさにリーダー、「監督としての覚悟」だったと思っている。

文/平石洋介

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