2024年のF1アブダビGPは、多くのマシンが1ストップで走り切るレースとなった。しかし今年は同じようにいかないかもしれない。レッドブルのレース責任者およびマックス・フェルスタッペンの担当エンジニアを務めるジャンピエロ・ランビアーゼが語った。
2024年のアブダビGPでは、ほとんどのマシンがミディアムタイヤ(C4)タイヤを履いてスタート。その後25〜29周目頃にピットインしてハードタイヤに履き替えると、そのままチェッカーを受けた。中団グループはもっと早めにピットインしたり、4位に入ったルイス・ハミルトン(当時メルセデス)はハードタイヤでスタートしたものの、概ね1ストップで走り切った。
今年の持ち込まれるタイヤの組み合わせは前年同等C3(ハード)、C4(ミディアム)、C5(ソフト)と昨年と同じであるものの、初日の段階では予想よりもデグラデーション(タイヤの性能劣化)が大きいという。
そう明かすのは、レッドブルのランビアーゼだ。彼はチームのプレスリリースで次のように語っている。
「我々はアタックラップのパフォーマンスにはそれほど比重を置かず、燃料を多く搭載しての連続走行に時間を割いた。そのおかげで、レースに向けたデータを多く手にすることができた」
「タイヤは当初の想定よりも少しナイーブで、フィールド全体で右フロントのグレイニング(ささくれたように摩耗すること)が問題になっているようだ。日曜日に向けてこのタイヤの寿命をどうやって伸ばすか、それを分析する必要がある」
「デグラデーション(性能劣化)も予想よりも大きく、当初は比較的単純な1ストップになると考えていたが、今では疑問符がついている。ピットストップが何回必要になるのか、そしてどうタイヤをケアしていくのかを理解しなければならない」
なおこのタイヤについてピレリのレースエンジニアのシモーネ・ベッラは、それでも1ストップが最速の戦略であると見込んでいると明かす。
「主に右フロントにグレイニングが発生しており、これによってタイヤのデグラデーションがやや早まってしまっている。この状況では、レースで最も安定して使えるタイヤはミディアムとハードで、ソフトタイヤはアタックラップ向きであるようだ」
そうベッラは語る。
「ただ、トラックエボリューション(コースコンディションの向上)という要素がある。サポートレースもあるので、走行前にはかなり汚れていた路面にラバーが乗り、グリップが向上するはずだ。これにより、今後数日でグレイニングが減り、ソフトタイヤが改めて使えるタイヤになる可能性がある」
「今日の状況を見る限りは、1ストップの戦略が最も有力に思える。しかし週末の進み方によっては、2ストップが選択肢に入る可能性がある」
ベッラの言う1ストップは、ソフトタイヤを使えるかどうかという点に関わっているということであろう。今回ソフトタイヤのパフォーマンスは非常に優れており、ミディアムタイヤとの1周のペース差は0.7〜0.8秒もあるという。ただその反面、デグラデーションは大きく、すぐにミディアムタイヤとパフォーマンスが逆転してしまう可能性がある。
金曜日のフリー走行2回目では、複数台がソフトタイヤでのロングランを実施。中でもレーシングブルズのアイザック・ハジャーは、1分27秒台という猛烈なペースのロングランを走った。ミディアムタイヤでのロングランを行なった中で最速だったランド・ノリス(マクラーレン)やマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が1分29秒台前半だったことを考えると、燃料搭載量の差があったとしても、いかに驚異的なモノであったことがわかるだろう。
しかしハジャーのペースは、6周も走ると低下傾向に転じ、1分30秒程度まで落ちていった。つまりデグラデーションが大きく、決勝で履くのは勇気が必要な状況であるのは間違いない。
ただ、ミディアムタイヤでのロングランも決して優れているとは言えない。フェルスタッペンは連続走行の8〜9周目頃からペースが落ち始め、その後も一定の割合でペースが落ちていった。そう考えると、ソフトだけではなく、ミディアムも決勝で使うのは難しくなるかもしれない。
これに対処するためには、ハードタイヤを2セット、ソフトタイヤを1セット使う2ストップも、確かに選択肢に入ってくるかもしれない。ベッラもそう明言する。
ただ初日を終えた時点でハードタイヤを2セット持っているのは、マクラーレンの2台とアストンマーティンのフェルナンド・アロンソの合計3人のみ。他のドライバーたちにとっては、既に現実的な戦略ではない。

