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“絶好調男” の仮面の裏で…中畑清が語るプロ野球労組創設の壮絶舞台裏「ONも『キヨシ、それは時期尚早じゃないか?』って」

“絶好調男” の仮面の裏で…中畑清が語るプロ野球労組創設の壮絶舞台裏「ONも『キヨシ、それは時期尚早じゃないか?』って」

ヤクルト選手会、まさかの脱会で足並み揃わず…

それでも初代中畑会長の率いる選手会労組の船出は予想以上に厳しかった。組合として登記された翌年の1986年の開幕戦前日にヤクルトの選手会が脱退を突然宣言したのである。

会長の角富士夫が中畑の宿泊しているホテルに現れてヤクルトの選手全員が抜けることを伝えた。松園オーナーの圧力だった。これまでの喜びが大きかった分、中畑のショックは大きかった。

中畑「あれはショックだった。バカ野郎、そのために組合を作ったのに何で理解してくれないんだっていう悔しさだね。オーナーから直に圧力がかかるかたちで『お前らが束になってかかってきたって、“クビ”って言ったら終わりなんだぞ』と、その年のキャンプで一喝やられて、その瞬間にみんながビビったと言うんだ。

特にベテランの選手たちが死活問題で、それで(角)富士夫がわざわざ俺のところまで訪ねてきて、『力及ばずですみません。脱会させてください』と言うんだ。松園さんの鶴の一声に『それ言われたら僕ら何もできないんで』って。

悔しかったけど、『まあ選手としては、そう言われたら、従わざるを得ないだろうな。うん、分かった』って。『ただ、俺たちが選手会を作ったのは、そういった一方的なクビ切りがあったときに、みんなを守るためなんだ。その団体が選手会なんだ、組合なんだぞ』ということを淡々と富士夫に言ったかな。

それで、最後に『気持ちは理解するけど、12球団の足並みが揃わないというのは、つらいところがあるよ』ということまでは、伝えた」

––––開幕の前日というプロ野球選手にとって最も重要なタイミングにぶつけられた脱退宣言は、レギュラー選手としてメンタルがやられる。

中畑「そのやり方も汚いと思った。でも富士夫も言われてやらされているから、彼が一番大変だったと思う。それも分かるから責められないしね。ただ、何となく大体予測はついていたんだ。切り崩されるとしたらヤクルトだろうなと。当時、一番弱い球団だったし、親会社にも労働組合がなかったから。

でもそのあとに尾花(高夫)が会長になって、そしたら『中畑さん、待っていて下さい。自分が必ず復活させますから』と宣言してきたのよ。そしたら、本当に組合に再加入してきたんだ。あいつはしっかりしてるよ」

尾花がヤクルトを復帰させたことで、選手会は後に古田敦也、宮本慎也というリーダーシップに優れた人材を会長として得ることになる。

奮闘した中畑が報われたDeNAの日本一

組合設立について無私の精神で走って来た中畑が、「俺にもようやく見返りの幸せが来たかな」と嬉しそうに呟いた瞬間があった。2024年、初代監督を務めたDeNAが日本一に輝いた。この日、始球式に登場した中畑はスタンドから大きな「キヨシコール」を浴びた。

中畑「あのときさ、俺が監督で日本一を獲ったわけじゃないけど、南場オーナーの配慮で日本一のチャンピオンリングを頂いたんだ。本当にありがたかったね」

これもまた選手会との因果関係がある。2004年球界再編時にあった球団減の動きを古田会長時代率いる選手会は阻止したが、同時に情熱のある新規会社による参入のハードルを下げさせたのである。

(※新規加盟金はそれまで60億円であったが、半額の30億になり、その内、25億円はデポジット扱いで加盟から抜けたら返却される。実質、5億円で参加できることになった)

これがなければ、南場智子オーナーが起業したDeNAを親会社とする新生ベイスターズは生まれていなかったとも言えよう。2024年のチャンピオンリングは唯一中畑にもたらされた野球の神様のご褒美だったかもしれない。

––––今では選手の年俸も劇的に上がる。中日のクローザーの松山晋也は入団時は年俸300万円の育成出身ながら、3年目の今シーズンオフに1億2500万円で更改した。40年前以前では到底考えられない昇給率です。だからこそ、先人たちが繋いだこの歴史を知って欲しいと思う。

中畑「うん。それは一番思うな。今、日本代表に行っている連中こそ、強い気持ちを持ちながら、これは大事なことなんだということを後輩たちにも教えてほしいしね。

でも、俺らが作ったからということで、それを無理に彼らには背負わせたくはない。時代の流れというのは必ずあったことだから、『お前ら、今の環境に甘えてんじゃねえぞ』みたいなことは、あえて言う気もない。

それよりもこれから先のことを考えたときに、メジャーがこれだけ盛り上がってるけど、一番大事な土台の日本のプロ野球はどうなっていくんだろうということの不安。そこで今度は、労使関係の中に、どれだけ同じアイデアを保ちながら協力し合っていくかという環境作りをやんなきゃいけないと思う。

労組とNPBとでどれだけの世界を作っていけるか。野球界の展望をともに考えていって欲しい」

取材・文/木村元彦

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