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なぜ殺人事件の被害者の葬儀に記者がやってくるのか? 守るべきは表現の自由か、故人とのお別れの時間か…現役弁護士が明かすメディア対応の現実

なぜ殺人事件の被害者の葬儀に記者がやってくるのか? 守るべきは表現の自由か、故人とのお別れの時間か…現役弁護士が明かすメディア対応の現実

マスコミ不信をまねかないために

こうした事件発生直後のメディアスクラムで、マスコミ不信となってしまう被害者は本当に多いです。一方で、事件や事故を風化させたくない、忘れてほしくないので報道を続けてほしいと思っている被害者や遺族もたくさんいます。

久保さんもそのお一人ですし、池袋暴走事故のご遺族の松永さんも同様です。松永さんは、交通事故をどうしたら減らせるか、高齢者の運転の問題をどう解決していくべきか、うまく記者たちと付き合いながら発信し続け、事故から6年を経ても事件は全く風化しません。

久保さんも二度と同じような食中毒事件が起きないように、自分のような悲しみを味わう人がいないようにと、加害者の処分が決定した時や類似の事件が起きてしまった時などに折に触れて取材を受け、その思いを伝え続けています。

社会的な問題を追及することが使命であるメディアと被害者は、被害をなくすために、本来なら共に手を携えられる関係のはずです。代理人としても被害者が望み、被害者のためになるならばメディアへの協力は惜しみません。

メディアには、時に自分たちの取材がやり方によっては被害者に対する暴力になることを自覚し、改めてほしいと思います。また、できるならば、事件が起きた時だけワーッと取材して終わりではなく、被害者やその代理人としっかりした信頼関係を築き、長く継続的に取材をしていただきたいです。

問われる取材姿勢

既存メディアは企業ですから、数年で異動などにより担当者が変わるのはやむをえません。しかし、その弊害が被害者取材に表れます。

例えば、焼肉酒家えびす事件は、事件が発生して刑事事件の不起訴が確定し、その後、店を経営していた会社の破産手続きが終了するまで約12年を要しました。そうすると、事件が起きた時は小学生だったので、事件自体を知らなかったという若い記者が取材に来ることもあります。

そのこと自体はその記者の責任ではありません。ただ、今はネットで簡単に過去の事件を調べることができます。破産手続きとは何か?ということも大まかなことは分かるはずです。それすらすることなく、「何も知らないけれど教えてください」と言ってくる記者もいますが、それは仕事とは言えません。

また、社内で全く引継ぎがなされておらず、「ご遺族の名前と生年月日を教えてください」と言われることもあります。これまで久保さんは記者に対し、何度自分のフルネームと漢字、生年月日を言わなければならなかったでしょうか。

社によっては、異動していても「この事件だけは自分が続けることになっています」と言って継続的に取材に来る記者もいます。それはご遺族にとっても嬉しいことですし、私も記者の人となりや記事の書き方が分かっているので安心して対応できます。事件発生時から取材していて事件全体を俯瞰することができるので、付け焼刃の取材で書いた記事とは雲泥の差です。今後は、こういう仕組みが普通になってほしいと思います。

などと偉そうなことを言っていますが、私も記者時代は、右も左も分からないことばかりで、本当に多くの方からさまざまなことを教えてもらい、助けてもらいました。

例えば、司法に関する記事を書くのは専門的なことが多くて難しく、事件を担当する弁護士さんにはお世話になりました。懇切丁寧に素人の質問に付き合っていただいたことは、今でも感謝しています。

弁護士になって取材を受けるという逆の立場になってみると、メディアに間違った情報を流されると困るので親切に応じてくれたんだと分かります。両方の立場が分かる身としては、可能な限り協力し合うことが、よりよい社会を作り、ひいては被害者のためにもなると考えています。

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