
「ヴィニシウスが指揮官に怒りを爆発させた日、何かが壊れた」“混迷”するマドリーにレジェンドOBが意見「中盤の思考スピードが遅い」【現地発コラム】
レアル・マドリーは声を潜め、ごく一部の人間だけに語りかけるため、沈黙さえも解釈しなければならない。ヴィニシウスがシャビ・アロンソ監督に怒りを爆発させた日、皆の前で何かが壊れた。
クラシコ4連敗中だったマドリーはその屈辱的な流れを断ち切った(スコアは2-1)。しかし、その偉業を祝う代わりに、スポットライトはヴィニシウスに注がれた。彼は交代を命じられると、大きな癇癪を起こしたのだ。
同じことは過去の重要度の低い試合でもより控えめな形で起きていた。しかし、反響の大きなクラシコでのヴィニシウスの交代に反抗する姿はスキャンダラスなトピックとなり、いくつかの結果をもたらした。
シャビの求心力を低下させ、試合中の気を散らし、勝利の価値を損なった。なぜなら、バルセロナに勝つということに焦点が当てられなくなったからだ。その後、ヴィニシウスは、自分が怒らせた唯一の人物、つまりシャビを除くすべての人に謝罪した。
クラブからの反応はなかった。指揮官よりも、常に被害者としての立場を享受しているヴィニシウスを支持する選択がなされたと解釈するのは容易である。クラシコ後、マドリーは大勝(4-0)したバレンシア戦を挟んで、リバプールに敗れ(0-2)、ラージョ・バジェカーノとスコアレスで引き分けた。もっとも他のリーグでも、同じ日にチャンピオンズリーグ勢のアーセナルとバイエルン・ミュンヘンが、それぞれサンダーランドとユニオン・ベルリンと引き分けたことを指摘しておきたい。
ついでに言えば、ロンドン、ミュンヘンいずれの場所でも監督が責任を問われることはなかった。しかし、マドリーではそうだった。危機的状況において唯一重要なこと、つまり監督の立場を強化することを怠った代償をクラブは支払ったのだ。
マドリーの不安定さは、フットボールでよくあるような謎ではなく、歴史と論理に基づいている。ラージョ戦の後もエルチェ(2-2)、ジローナ(1-1)と敵地でのドローが続いたが、通常はそうした格下が相手だと優勢的に試合を進め、希望に火をともす。しかし、強豪同士の試合となると(リバプールのようにタフなプレミアリーグでもまれたチームが相手だとなおさらだ)、その勢いが失われる危険性がある。その原因が監督にあるのではないとしたら?
世界最高のGK(クルトワ)とストライカー(エムバペ)がいれば、多くの試合に勝つことができる。時には、勝つに値しない試合にも勝つことができる。しかし重要な試合では、守るゴールと攻めるゴールの間で、秩序、コントロール、貪欲さ、そしてプレーリズムが必要だ。
マドリーは組織力と献身性において今後も成長を続けるだろうが、今のままでは相手のペースに飲み込まれてしまう。チームはまだ成熟していない、あるいは選手たちの自己犠牲の精神が足りないと言われるのがオチだ。
しかし、問題の根源は、チーム編成と選手層にある。特にチームのスタイル、意図、指揮を決定づける中盤においてそれは顕著だ。現在のマドリーのMF陣が走らないというわけではないが、思考スピードが遅い。フットボールは集団的な構築物であり、モドリッチとクロースの知性なしでは、容易に見えたことが困難になっている。戦略家が不足しているのだ。
チュアメニは不動の存在となり、ベリンガムは確かな価値を持ち、バルベルデは故障者が復帰すれば、本来のポジションでの活躍が期待されている。ほかにもギュレル、マスタントゥオーノ、カマビンガ、ロドリゴ、ブラヒム・ディアス、セバジョスと中盤を埋めるための選択肢が豊富にある。
しかし、いくら試行錯誤を繰り返しても、集団的な基準を見出すことは依然として難しい。監督の仕事は、与えられた選手で競争力のあるチームを作ることだ。確かにその通りだ。しかし、5分でできることではない。
文●ホルヘ・バルダーノ
翻訳●下村正幸
【著者プロフィール】
ホルヘ・バルダーノ/1955年10月4日、アルゼンチンのロス・パレハス生まれ。現役時代はストライカーとして活躍し、73年にニューウェルズでプロデビューを飾ると、75年にアラベスへ移籍。79~84年までプレーしたサラゴサでの活躍が認められ、84年にはレアル・マドリーへ入団。87年に現役を引退するまでプレーし、ラ・リーガ制覇とUEFAカップ優勝を2度ずつ成し遂げた。75年にデビューを飾ったアルゼンチン代表では、2度のW杯(82年と86年)に出場し、86年のメキシコ大会では優勝に貢献。現役引退後は、テネリフェ、マドリー、バレンシアの監督を歴任。その後はマドリーのSDや副会長を務めた。現在は、『エル・パイス』紙でコラムを執筆しているほか、解説者としても人気を博している。
※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙に掲載されたバルダーノ氏のコラムを翻訳配信しています。
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