2010年9月の放送開始以来、2015年のシーズン6までの全52エピソードをもって幕を閉じた本シリーズ。2019年には劇場版として復活して、社会現象を巻き起こし、15年にわたり世界200か国以上で放送され、英国ドラマの金字塔ともいえるシリーズとなった。そして今回フィナーレを飾る重要なキャストとして、当時のイギリス文化を象徴するノエル・カワード(アーティ・フラウスハン)がダウントン・アビーに来城!物語を動かす重要なキーマンとして作品を彩る。

俳優、劇作家、作曲家、演出家など、多方面でマルチな才能を発揮したカワードは、トニー賞、アカデミー賞などを多数受賞。ガートルード・ローレンスやチャップリン、マレーネ・ディートリヒらと親交があり、首相になる前のウィンストン・チャーチルとは、しばしば写生に行く絵描き仲間だったという。セレブリティという概念が確立される以前に、すでに絶大な有名人として多大な影響力を持っていたカワードは、華やかさの象徴実在の人物であり、上流階級の貴族たちを魅了する存在だった。
劇中では、長女メアリー(ミシェル・ドッカリー)の離婚により地元社交界の晩餐会への出席を親しい友人たちから断られた際、次女イーディス(ローラ・カーマイケル)が「彼に会いたいあまり、皆が欠席を返上する」と見込み、友人のカワードを招待するという大胆な策に出る。メアリーの離婚を喜劇と捉え、のちに自身の代表作となる戯曲「私生活」へのネタとして楽しむ彼の振る舞いは、窮地のクローリー家の追い風となるのか?

脚本のジュリアン・フェローズは、カワードを登場させた理由について、彼の戯曲「ビター・スウィート」が1930年にロンドンで初演されたことに着目したと説明している。フェローズが望んだのは、「クローリー家にとって、脅威とはならない穏やかな現代性を持ってきてくれるキャラクター」だった。カワードは「その時代の空気を完璧に作品に取り入れた人物」であり、「なにが変わろうとしているのかを察知している人物」でもあった。彼は、社会変革のきっかけを作った自由な思想の持ち主であり、本作において、メアリーが旧習に囚われた上流階級社会で再び受け入れられるための道筋を作った存在となっている。
さらに本作では、「ビター・スウィート」で使用された楽曲「I'll See You Again」をはじめ、彼の曲が多数使用されている。また、監督のサイモン・カーティスの父が、「ノエル・カワードの日記」を出版した縁でカワード本人から譲り受けた、「NC」のイニシャル入り銀のピルケースが小道具として登場するなど、制作陣の温かい敬意も込められているのも見逃せない。

華麗なる物語の結末は?ダウントン・アビーの未来は?ぜひ心揺さぶる感動のフィナーレを映画館で迎えていただきたい。
文/山崎伸子
