波乱の政権が迎えた“落日”
安倍政権の陰りが明確になったのは、令和2(2020)年であった。8月上旬に読売新聞が実施した世論調査で不支持率54%と、第2次政権以降で最悪を記録。時のコロナ禍対応での指導力についても、78%が「発揮していない」と突き放したのである。ここでは波乱の政権の“落日”を決定的に感じさせた。
それからわずか3週間ほどの8月28日、安倍は体調不安を理由に辞意を表明した。正式退陣は9月16日、すでに前年11月20日の時点で首相通算在職日数は2887日となり、それまで最長だった戦前の桂太郎を超えて「首相在職最長記録」ホルダーとなった。
しかし、その安倍は退陣から約2年後の令和4(2022)年7月8日、岸田文雄政権下における参院選さなか、奈良県での応援演説中に凶弾に倒れた。時にまだ67歳、一部では「再々登板」もささやかれた矢先であった。
とりわけ第2次政権以降は、夫である安倍の意に反するかのような“奔放な言動”も話題となった妻の昭恵だったが、銃撃事件の公判では検察側に、次のように心情を伝えた上申書を提出している。
「(病院で夫の)顔は穏やかで笑っているようだった。手を握り、耳元で『晋ちゃん、晋ちゃん』と呼びかけた。ほんの少し、手を握り返してくれた気がした。夫は真面目で優しく、立場に関係なく誠実で、偉そうなことを言うことはなかった。
勉強家、努力家で、家の書斎で勉強していた。高齢となった母(注・洋子)を残して逝ってしまうのは心残りだったと思う。桜の季節に生きていれば、花見やドライブに行っていただろうと、何かにつけてそういう思いが頭をよぎる」
政治家の真の評価は、「棺を覆ったのちに」といわれる。これから先、安倍の評価はどのようなものになっていくのだろうか。
(本文中敬称略/次回は福田康夫)
「週刊実話」12月18・25日号より
小林吉弥(こばやし・きちや)
政治評論家。早稲田大学卒。半世紀を超える永田町取材歴を通じて、抜群の確度を誇る政局・選挙分析に定評がある。最近刊に『田中角栄名言集』(幻冬舎)、『戦後総理36人の採点表』(ビジネス社)などがある。
