「面白いけど日常で使わないでしょ!」
――どうやって出版することになったの?
これも右往左往あって……右往左往?
――紆余曲折じゃない?
それだ! 紆余曲折あったんだよ。12年も編み物をやっていると、編み物業界の人とか編集者の人が面白がってくれていて。チャカカバーとか作っていたら、「オリジナリティがあっていいですね」「本を出せたらいいですね」とか言ってくれるの。最初は「いいですね」くらいだったんだけど、いつもお世話になっている手芸会社のハマナカ株式会社さんの紹介で、編物本を専門に編集している人を紹介してくれたの。そしたら、その編集の方も「本を出しましょう! 出版社探しましょう!」って。
――アイパーの作品が人と人を繋いで出版することになったんだ。今回、初の書籍のテーマを、数ある編み物の中から「ポシェット」に絞ったのはどうして?
最初はチャカカバーとか、小指ケースとかにしたかったけど、「面白いけど日常で使わないでしょ!」って(笑)。

――(一同爆笑)正論だね。
「編み物をやる人は、日常で使える物を編みたいんです」と言われて。「じゃあ、親子で着るセーターとかにしましょうか?」とか。あとは最近、自転車のヘルメットが「努力義務」になったじゃん? だからヘルメットにかぶせるカバーを作ったの。
ただ、普通にヘルメットにかぶせるだけじゃ面白みも何もないじゃん? だから、たとえばワンピースのルフィの帽子みたいになっているカバーとか、競輪選手がかぶる色と番号がついているのとか、ヤンキーが原付でよくかぶる、後ろ髪がついている半キャップのメットとかを考えたの。それで「そんなのもいいですね。」って話にもなったんだけど、なんだかんだで、ポシェットに落ち着いた。
――聞いたなかでは、ポシェットがいちばん売れそうだね。
そうなの。手芸界のことを知っている編集の人が、需要とかいろいろ考えてくれて。ポシェットは意外性もあるし、初心者の方にも優しいのではないかって。
――ポシェットはもともと作っていたの?
いくつか作っていたよ。ドーナツ型のポシェットとか、ハムエッグトーストのポシェットとか。そういうのを見て、今回のテーマはポシェットになったんだと思う。

編み物は見本通りにできなくても問題なし!
――今回、書籍には作品が33点掲載されているけど、いちばん苦労したものは?
苦労ってないかも。俺の作品って、難しい編み方はしてないの。
――そうなの?
そう。技法としては難しくないの。
――編み方の種類はたくさんあるの?
かぎ針編みに関してはいっぱいある。でも、俺は全然覚えてないし。その都度、編み方の教本を見ればいいし。最初は覚えようと思ったけど、覚える必要ないなと思って。
――もう、編み物はアイパーの天職だ! 苦労って思わないんだね。
そうだね。でも、自分の頭の中にある理想に近づけるように、何回も試行錯誤するときはちょっと大変かな。あとは、他にないものを作りたいから(そこも大変)。たとえば、クリームソーダのポシェットが掲載されているけど、自分以外でもクリームソーダのポシェットを編んでいる人がいるの。それをマネしたら他人のものになっちゃうから、どうやったらオリジナルになるかは悩んだね。

――今回、掲載されなかった作品にはどんなものがあるの?
ボツになった作品も33点くらいあるからね。カラオケパセラとかにあるハニートーストのポシェットを作ったんだけど、ボツになっちゃった……。けっこう大変だったから、掲載してほしかったけどね(笑)。
――この本をどんな人に読んでほしいですか?
全人類だよ。
――理想はね(笑)。この本をきっかけに編み物をする人もいるだろうね。
それは嬉しいね。編み物って、見本通りにできなくて挫折する人もいるんだけど、編み物に失敗ってないからね。これは俺の経験上の話だけど、どんなふうになっても、毛糸っていうだけで可愛いから。見本と同じにしようとしなくても、編んでいるのが楽しかったら別にいいじゃんって思うよ。
――最後にメッセージをお願いします!
編み物を始めるきっかけをアイパーにしてくれたら嬉しいホゥ! 転売ヤー! 転売禁止だぞ! ホゥ!

芸人だからこその発想で作られるアイパー滝沢の編み物作品は、今後も大注目です!
【著者 プロフィール】
アイパー滝沢
お笑い芸人。吉本興業所属。東京NSC9期。1974年9月18日生まれ。
2013年ごろから編み物を始め、現在では全国各地でのワークショップ、カルチャーセンター講師、個展やニットイベントなど多方面で活躍中。任侠芸人としての側面を持ち、強面キャラならではのユニークな作品に定評がある。
ニット講師として2019年「すてきにハンドメイド」、2025年11月「沼にハマってきいてみた」(NHK)出演。
よしもと手芸部部長。趣味は任侠映画鑑賞、魚道観察、ダーツ、親孝行など。本書が初の著書となる。
「ホゥ!」は口癖で、特に意味はない。編み物の様子はSNSでも配信中。