
多くの国では近親婚が制限されており、近親相姦もタブー視されています。
また近親相姦は、単に倫理的な問題だけでなく、「先天異常の子供が生まれやすい」という遺伝的な問題もあります。
では、近親相姦を続けることで、実際にどんな影響があるのでしょうか?
フランス・ボルドー大学(Bordeaux University)に所属するケイト・マクグラス氏ら研究チームは野生動物において、近親相姦の影響を示す興味深い事例を報告しています。
このチームによると、マウンテンゴリラは他のゴリラや、最も近親交配が進んでいる人間の集団と比較しても、特に近親交配が進んでおり、その影響で顔が対称ではなくなっている可能性が高いというのです。
近親交配を続けたゴリラは、骨格が徐々に歪んでしまっているようなのです。
研究の詳細は、2022年2月23日付の科学誌『Proceedings of the Royal Society B』に掲載されました。
目次
- ゴリラの顔の左右非対称性の原因は近親交配かもしれない
- 近親相姦で顔が歪んでいく?
ゴリラの顔の左右非対称性の原因は近親交配かもしれない

ルワンダの自然保護区に生息するマウンテンゴリラについては、これまでの研究でも顔が歪んできているという報告がありました。
時間の経過とともに、左右非対称な顔をもつゴリラが増え、その非対称性も大きくなってきたのです。
科学者たちは当初、この原因は環境ストレスにあると考えていました。
また別の科学者は、片方の歯で物を噛むクセが原因だと考えたようです。
しかし今回、研究チームは「保護区で生活するマウンテンゴリラは、一生のうちほとんどストレスを感じておらず、咀嚼との関係性も見いだされなかった」と述べています。
そもそも顔の非対称性は、1970年代初頭のゴリラの骨格標本から見られるようになったとのこと。
ここ数十年で見られた変化なのです。

そこで研究チームは、顔面非対称性のルーツを探るため、過去100年間に収集された40体のマウンテンゴリラの頭蓋骨を調査しました。
そして同じ調査を、イースタンローランドゴリラとウエスタンローランドゴリラでも実施。
その結果、非対称性は次の順番で強いと分かりました。
- 1位:マウンテンゴリラ
- 2位:イースタンローランドゴリラ
- 3位:ウエスタンローランドゴリラ
興味深いことに、この順番は「個体数の少ない順番」とも一致しています。
つまり個体数が少ないゴリラほど、顔が歪んでいたのです。
そのため研究チームは、「近親交配が顔の非対称性を大きくしている」と結論付けました。
マウンテンゴリラは個体数が少なくなってきたため、どうしても近親交配が多く行われるようになり、その結果、左右非対称の顔が増えている、というのです。
では、これらの結果は、人間にも当てはまるのでしょうか?
近親相姦で顔が歪んでいく?
今回の研究から、マウンテンゴリラは近親交配によって顔が左右非対称になった可能性が高いと言えます。
しかも、この非対称性が1970年代初頭のゴリラから見られたこと、100年分の頭蓋骨でも増加が見られたことからすると、近親交配による歪みは数代続くだけで現れるのかもしれません。

そして研究チームは、ヒトとゴリラの類似点にも注目し、次のように述べました。
「以前の研究で、ヒトやゴリラは男女共に相手の対称性を好む傾向があると分かっています。
これには近親交配が続くことを防ぐ効果があるのかもしれません」
ヒトやゴリラは非対称を好まないので、非対称をつくりだす近親交配を自然と避ける、ということでしょう。
さて、この推測が事実かどうかは分かりませんが、ゴリラと同様、人間も近親相姦によって顔が歪むかもしれません。
実際歴史は、近親婚を続けた名家で顔の変形が見られていたことを示しています。

例えば、16~18世紀にヨーロッパを統治していたハプスブルク家の王や王妃には、しゃくれた顎など、歪んだ顔が多かったと言われています。
2019年の研究では、これが近親婚を繰り返した結果だと報告されています。
これら最新の研究からすると、近親交配はやはり遺伝的な悪影響を与えると分かります。
漫画やドラマでは、ときおり実の兄妹同士の恋愛が禁断の恋として描かれたりしますが、近親相姦や近親婚が人間社会でタブー視される背景には、こうした科学的な根拠があるのです。
参考文献
Facial asymmetry in mountain gorillas likely tied to inbreeding
https://phys.org/news/2022-02-facial-asymmetry-mountain-gorillas-tied.html
元論文
Facial asymmetry tracks genetic diversity among Gorilla subspecies
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2021.2564
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部

