目薬で老眼克服――その可能性と課題

老眼というのは、いずれほとんどの人が経験する目の老化現象であり、これまでは老眼鏡か手術という選択肢が中心でした。
実際、もし目薬を1日に2回差すだけで新聞やスマホの細かな文字がくっきり見えるようになれば、中高年の生活は間違いなく快適になるでしょう。
老眼鏡を常に持ち歩いたり、かけ外しを繰り返したりする手間や煩わしさから解放されることは、多くの人にとって大きな喜びになるはずです。
ただ、この目薬があれば老眼鏡が要らなくなるという極端な話ではありません。
研究のリーダーであるベノッツィ医師は、この点眼療法を「老眼鏡への依存を減らし得るが、すべての人で眼鏡が不要になるわけではない」と位置づけ、「手術の置き換えではなく、患者の状態に合わせて使い分けられる“個別化可能な”非侵襲の選択肢」として提示しています。
とはいえ、今回の研究が大きな希望をもたらしたこともまた確かです。
現実には老眼鏡を使いたくないけれど手術も不安で受けられない、という人が大勢います。
そんな中で、点眼薬というシンプルで手軽な方法が老眼治療の新しい選択肢として登場したのですから、この成果の意味は決して小さくありません。
一滴の目薬が、老眼鏡に頼りきりだった私たちの日常を大きく変える――そんな未来が、今まさに始まりつつあるのかもしれません。
元論文
Dose-Dependent Efficacy And Safety Of Pilocarpine-Diclofenac Eye Drops For Presbyopia: A Real-World Single-Center Study
https://pag.virtual-meeting.org/escrs/escrs2025/en-GB/pag/presentation/570375
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

