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「歌詞は美しく、とても物悲しい」日本レコード大賞を受賞した布施明の『シクラメンのかほり』

「歌詞は美しく、とても物悲しい」日本レコード大賞を受賞した布施明の『シクラメンのかほり』

布施明『シクラメンのかほり』
【スージー鈴木の週刊歌謡実話第17回】
布施明『シクラメンのかほり』作詞:小椋佳、作曲:小椋佳、編曲:萩田光雄 1975年4月10日発売

「布施明フォーク化作戦」の首謀者は…

布施明が、今年のNHK紅白歌合戦に出場することが決定しました。2009年の紅白以来、実に16年ぶりの出場ということになります。

というわけで今週は「布施明紅白復帰記念」ということで、彼が歌謡界の天下を取った、ちょうど50年前の『シクラメンのかほり』をご紹介します。歌謡界の天下、すなわち1975年の日本レコード大賞を受賞したヒット曲です。

前々回、キャンディーズ『アン・ドゥ・トロワ』のときにも触れましたが、当時の歌謡界は、吉田拓郎や井上陽水らの登場で、若者人気を急速に集める新ジャンル=フォークとどう戦うかが大きなテーマでした。

そして布施明が所属していた渡辺プロダクション(ナベプロ)は「歌謡曲にフォークを取り込む」という方針に打って出ます。

「布施明フォーク化作戦」の首謀者は、当時ナベプロで布施明のマネジャーを務めていた小坂洋二。のちにEPICソニーというレコード会社のプロデューサーに転身、佐野元春をブレイクさせる人物です。

ある日「名誉が欲しい」と言った布施明に「名誉か、それならレコード大賞だ」と思い「布施さん、レコード大賞獲れればいいんですね? じゃあ5年以内に獲らせますよ」と宣言。

そして小坂洋二は、吉田拓郎、井上陽水を追うようにフォーク界で人気を集め始めていた小椋佳を訪ね、彼のレパートリーから「シクラメンのかほり」を選んだのでした(詳細は小坂洋二氏へのインタビューを載せた拙著『EPICソニーとその時代』-集英社新書-参照)。

「真綿色」「うす紅色」「うす紫」という3色のシクラメンの出てくる歌詞は美しく、とても物悲しい。

スージー鈴木の週刊歌謡実話】アーカイブ

「布施明フォーク化作戦」大成功の瞬間

また過ぎ去った時代に思いをはせるのは、同じく’75年にヒットした荒井由実『あの日にかえりたい』に似ています。遠い過去を振り返りたいという気分が、時代の中に立ち込めていたということでしょう。

ちなみに私は、そのときのレコード大賞の映像を保存しています。トップが緑、ボトムが白、まるで画家のようなファッションで、フォークギターをかき鳴らしながら熱唱する布施明の姿は、まさに「フォーク歌謡」。

そして小坂洋二を首謀者とした「布施明フォーク化作戦」に大成功の瞬間が舞い降りたのが、ちょうど50年前の大みそか開催、日本レコード大賞の会場=帝国劇場なのでした。

少しだけ余談。シクラメンという花、実は、香りがまったくしないか、弱く、かつあまりいい香りではないものが一般的だったのです。しかしこの曲のヒットも影響して、品種改良が進み、今や「香りシクラメン」「芳香シクラメン」が出回っているのですから驚きます。まさに「世は歌につれ」。

日本の歌謡界に「フォーク歌謡」という大きな花を咲かせた布施明。あれから50年後となる今年の大みそかのNHKホールに、どんな花を咲かせて、どんな香りを漂わせるのでしょうか。楽しみです。

「週刊実話」12月18・25日号より

スージー鈴木/音楽評論家
1966(昭和41)年、大阪府東大阪市出身。『9の音粋』(BAYFM)月曜パーソナリティーを務めるほか、『桑田佳祐論』(新潮新書)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『沢田研二の音楽を聴く1980―1985』(講談社)など著書多数。
配信元: 週刊実話WEB

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