NHKの次期会長に、井上樹彦副会長のスライド昇格が決まった。18年ぶりの内部出身者の会長就任を待望する声が多かった、と報じられているが、NHK中堅局員によると、
「それは一部の理事だけで、威張り散らかしの井上さんに対する局内の評判は悪い」
経営委員会の古賀信行委員長は12月8日夜の記者会見で、新会長の選考について、
「根回しなく、全く予定調和のない形で、あえて進めてみた」
会長選考において、井上氏は「本命」ではなかった。現会長の稲葉延雄会長の続投を望む声はあったものの、初期の肺ガンが判明。続投は難しいとして、経営委員会では当初、外部からの起用を模索した。
だが、NHK会長職は予算承認のため国会に呼ばれるほか、記者会見などで追及されることが多く、経営委員も含め、外部の候補者に断られたのが実情だった。
これまでNHK会長人事には、歴代政権の意向が色濃く反映されてきた。その点、井上氏は高市早苗首相から評価されていない。高市首相は総務相時代、NHK理事だった井上氏の仕事ぶりを疑問視していた。
ただ、高市首相が影響力を行使しようとした形跡はない。読売新聞によると、高市首相は「会長は経営委員会で選ぶものだ」と述べている。
その代わりに井上会長の就任を喜んでいるのは、自民党・麻生太郎副総裁だと言われる。麻生氏は同じ福岡県出身の井上氏の昇格を望んでいたとされ、古賀委員長が会見で政治家からの声について「聞こえないこともない」と述べたのは、麻生氏の意向が念頭にあったためとみられている。
一部の政治家を喜ばせたのかもしれないが、井上氏は局内だけでなく、民放局のおける評判もすこぶる悪い。というのも、NHKと民放局が中継局の共同利用を目的として設立した子会社「日本ブロードキャストネットワーク」の見直しを言い出したのが井上氏だったから。月刊誌「選択」では「諸悪の根源」とまで批判された。
10月にスタートしたネットサービス「NHK ONE」も、民放局から警戒されている。井上新体制は前途多難の船出となりそうだ。
(奈良原徹/政治ジャーナリスト)

