
カナダのセントフランシス・ザビエル大学(StFX)で行われた研究によって、下ネタで笑い合えるカップルほどセックスへの満足度が高いという傾向が見つかりました。
これまでユーモアの研究は主に日常的ものに限られていましたが、新たな研究ではあえて「下ネタ」に切り込みその効果を解明したという点で画期的と言えます。
研究者たちは、性的ユーモアが気まずさをやわらげ、安心とつながりを育てる控えめだけれど特別なスパイスのようなものかもしれないと示唆しています。
研究内容の詳細は『Canadian Journal of Human Sexuality』にて発表されました。
目次
- 下ネタを科学する挑戦的な研究
- 下ネタはカップルに満足をもたらす
下ネタを科学する挑戦的な研究

正直なところ、多くの人にとって「下ネタ」は扱いに困る話題だと思います。
例えば飲み会などでは気楽に笑い合えるネタなのに、いざ自分の恋人の前では、途端に口ごもってしまうことも少なくありません。
あまり言いすぎると「軽い」と思われそうだし、逆に避けすぎるとなんとなくぎこちない距離が生まれてしまう。
そんな微妙なラインを意識しすぎて、疲れてしまう人も多いのではないでしょうか。
心理学の研究では、「ユーモア(冗談や笑い)」が恋人同士の関係にとって重要であると長らく注目されてきました。
ここでいうユーモアとは、お互いがリラックスできるような冗談やおしゃべりのことです。
ふだんから自然に冗談を言い合えるカップルは、そうでないカップルよりも緊張が和らぎ、ふたりの距離も縮まりやすい傾向が報告されています。
ただ、これまでの研究でよく取り上げられてきたユーモアは、あくまでも普段の会話での軽いジョークや他愛ない冗談が中心でした。
それに対して、セックスや身体の話題を扱う「性的ユーモア」は、ずっと慎重に避けられてきたのです。
というのも、性的ユーモアは内容そのものがデリケートな上に、冗談のつもりでも相手を傷つけたり、不快にさせたりするリスクが高いと考えられてきたからです。
そのため、恋人同士が普段から性的な冗談をどのくらい口にしているのか、またその冗談をどう感じているのか、さらにそれらがふたりの関係やセックスへの満足度とどう関連しているのかについて、実際に調査されたことはほとんどありませんでした。
そこで今回、カナダのセントフランシス・ザビエル大学の研究チームは、まさにその「性的ユーモア」というこれまであまり踏み込まれてこなかった領域に勇気を持って踏み込みました。
そして「下ネタを笑い合えるカップルほど、実はお互いへの満足度が高いのではないか?」という仮説を立て、実際に調査を開始しました。
一般的には、性の話題に関してふざけることは「軽い」「ふまじめ」「親密さとは逆方向」と思われがちですが、本当にそうなのでしょうか。
むしろ逆に、恋人同士が気まずさを恐れずに笑い合える関係性こそが、お互いの満足度や愛情の深さにつながっている可能性があるのではないか——。
研究チームはその可能性を、本格的に検証しようと考えたのです。
この研究結果がもしそれを示すことになれば、一見タブー視されがちな「エロ冗談」もまた、カップルの仲を深める隠れたコミュニケーションのコツなのかもしれません。
果たして、「下ネタで笑い合えるカップル」ほど、本当に親密で満足度が高いのでしょうか?
下ネタはカップルに満足をもたらす

下ネタにはどのような効果があったのか?
謎を解明するため研究チームは、18歳以上で現在の恋人と交際期間が4か月以上という条件を満たす196人を募集し、オンラインで詳細なアンケート調査を行いました。
(※参加者の平均年齢は約20歳、交際期間は平均25か月(約2年)でした)
質問では、日常会話でどれくらい冗談を言うか(関係ユーモア:ふだんの冗談の傾向)と、セックスや身体に関する冗談をどれくらい言うか(性的ユーモア)を尋ね、各ユーモアの頻度や内容、それに対する受け止め方(ポジティブかネガティブか)を答えてもらいました。
さらに各人の恋愛関係全体への満足度と、性的関係(セックス)への満足度についても心理学の標準的な尺度で数値評価しています。
結果、性的ユーモアをよりポジティブに受け止めている人ほど、実際に性的満足度が高かったことがわかりました。
そしてこの関連は、カップルの日常的な関係満足度や普段の関係ユーモアといった要因を統計的な分析で考慮に入れても残っていました。
言い換えれば、性的ユーモアそのものが性的満足度と独自の関連を持っている可能性が示されたわけです。
また、参加者の多くは「下ネタで笑い合えるとリラックスできる」「楽しいし、より親密になれた」と感じており、性的ユーモアによって「快適さ」「楽しさ」「親密さ」が増えたと感じたなどの内容を答えています。
セックス中に冗談を言い合っているときに互いの緊張がとけ、安心感が生まれる様子がうかがえます。
さらに質問票には、パートナーが使った性的な冗談の具体例を自由記述で書いてもらう欄もあり、研究者はそれを読み込み、いくつかのパターンに分類しました。
その結果、性的ユーモアには代表的なスタイルがあることがわかってきました。
たとえば共通の「内輪ネタ」になっている下ネタ、カップルごとの儀式めいたやりとり、身体を使ったちょっとおどけた動作、ベッドでの際どい言葉遊び、またセックスへの誘い文句そのものを面白おかしくしたり、途中のハプニングを笑いに変えてしまったりするケースもありました。
そしてほとんどの参加者が、こうした性的ユーモアによって「リラックスできた」「楽しい気分になれた」「パートナーとの距離が縮まった」と感じており、性的な出来事に軽やかさと遊び心を添える効果を挙げています。
セックスという緊張しがちな場面で笑い合えることが、2人の間に安心感を生み出していた可能性があります。
一方でごく少数ながら、相手を小馬鹿にするような下ネタや一方が不快に感じる性的冗談では「気分がしらけた」「不安になった」といった否定的効果も報告されており、実際パートナーのネガティブな関係ユーモアが多い人では満足度が低めでした。
つまり重要なのは“笑いの質”であり、単に下ネタの量を増やせばよいわけではないようです。
また分析では、もともと普段から明るい冗談を言い合うようなカップルほど性生活でも楽しい笑いを共有しており、逆に日常的に皮肉っぽい冗談ばかり言うパートナーを持つ人では性的満足度・関係満足度が低下する傾向も見られました。
このことから、カップル間のユーモアのスタイル全体がセックスの場面にも影響しうると示唆されます。
著者らは、性的ユーモアが性のウェルビーイング(sexual well-being:性に関する幸福感)に対して「控えめではあるが固有の役割(modest but distinctive role)」を果たしているとまとめています。
社会的な意味で見ると、この研究は「性の話題は真面目に、静かに語らなければならない」という暗黙のルールに、少し風穴を開けます。
研究者たちも、「性的ユーモアは、気まずくなりうる状況で不快感をやわらげ、自分自身の快適さとパートナーとのつながりを支えるのに役立つかもしれない」と述べています。
なにより、「性的ユーモア」という特別な部分を丁寧に切り出し、若い参加者のリアルな内輪ネタを集めたうえで、恋愛満足と性満足の両方との関連を同時に追いかけた本研究の価値は、非常に大きいと言えるでしょう。
もしかしたら未来の世界では、ベッドの中で交わすささやかな笑いこそがカップル円満の秘訣として常識になっているのかもしれません。
元論文
The use of sexual humor in romantic relationships: Description, valence and association with sexual satisfaction
https://doi.org/10.3138/cjhs-2024-0024
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

