羽生善治九段の「神対応」が、沈んだ空気を一変させた。
9月18日、渡辺明九段がXで長期休場を発表。左ひざ前十字靭帯損傷の術後障害が原因で、入退院を繰り返すなか年度末まで休場するという。順位戦ではA級からB級1組への降級も決定。渡辺九段は「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」「先が見通せない」とつづり、苦しい胸の内を明かした。長年将棋界を牽引してきたトップ棋士の離脱は、ファンにとっても大きな衝撃だった。
そんななか注目を集めたのは、日本将棋連盟とJT杯公式が発表した準決勝(10月12日)の扱いだ。藤井聡太竜王・名人と渡辺九段の一戦は不戦勝扱いになり、公開対局を楽しみにしていたファンの失望は避けられない、そう思われた矢先、JT杯公式アカウントが発表した一文に誰もが目を疑った。
「当日のJTプロ公式戦に代えて、同日同時刻・同会場にて『藤井竜王・名人 × 羽生善治九段』の特別対局を予定しております」
将棋界のレジェンド、羽生九段の登場である。羽生九段はJT杯で5度の優勝を誇る実力者であり、知名度も抜群。代役としてこれ以上の存在はいないだろう。ファンサイトでは「普段は謙虚な羽生さんが、将棋界を守る時だけ『自分が羽生善治』をフル活用するのが最高」「羽生先生登場なら誰も文句はない」と賛辞が相次ぎ、対局中止という最悪の事態を救った「神対応」として高く評価された。
渡辺九段の休場は将棋界にとって大きな痛手だが、その空白を埋めるように生まれた特別対局は、スポンサーへの配慮であると同時に、将棋界の結束を象徴する舞台となった。世代を超えた夢のカードは、藤井聡太の強さと羽生善治の存在感を改めて示す格好の機会でもある。
盤上に注がれる視線の先には、渡辺九段の回復を願う温かな思いも重なっている。JT杯特別対局は、危機を希望に変えた将棋界の力を映し出す一局となりそうだ。
(ケン高田)

