1年ほど前の話になるが、茨城県在住の船田敏子さん(仮名・55歳)は海外に美術留学していた娘の愛奈さん(仮名・24歳)を出迎えに羽田空港に出かけた。
「愛奈は都内の短大で美術を学んでいましたが『もっと造形の勉強がしたい』と卒業後にフランスに留学していました。2年間娘と離れ離れというのも親としては寂しかったのですが、1年を過ぎたあたりからはラインの文字だけのやりとりばかりで顔も見ていないし、肉声もほとんど聴いていなかったので本当に無事でいるのか、会うまでは心配でしかたなかったです」
そう語る敏子さんはこの日、はやる気持ちを抑えながら搭乗者出口を見守っていた。しばらくして愛奈さんに似た若い女性を見つけたが、顔立ちが似ているだけで風貌自体があまりに異質だったためすぐに目を反らしたという。
ところが次の瞬間、その女性が「ママ!」と叫んで敏子さんに駆け寄って来た。
「愛奈だったんです…愛奈だったのは間違いないのですが…」と敏子さんが言葉を失くすのも無理はない。実は、愛奈さんはとんでもない変貌を遂げていたのである。
「私が知る限り、渡仏前の愛奈は両方の耳にひとつづつピアスの穴が開いていただけですが、目の前にいる愛奈の耳にはそれぞれに10個以上のピアスが付けられていました。
それも耳たぶだけでなく軟骨の部分にもありましたし、耳たぶのところには向こう側が見える大きな穴が開いていました。
さらに両方の眉や鼻の穴、くちびるの両端にもピアスが刺さっており、話しをしている口元からは舌に金色の玉のようなものもくっついているのも見えました」
異形とも言える顔面に驚きを隠せなかった敏子さんは思わず「アンタの顔、穴だらけじゃない! どうなってるの?」と叫んでしまったそうだが、愛奈さんは「乳首とおへそとお股にもピアスは付いてるよ」と愉快そうに話したという。
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激怒した父は救急搬送される騒ぎに…
「聞いていて眩暈がしました。この子は頭がおかしくなっちゃったんじゃないか!? と思いましたね」
動揺を隠せない敏子さんが目線を下にずらすと、そこにも異変があった。
「首筋にチェーンネックレスのような入れ墨(以下タトゥー)があったんです。それは胸元にまで続いていました。よく見ると袖口からも茨のような絵がはみ出していましたし、足首からは葉っぱのような模様ものぞいていました」
敏子さんが恐る恐る「アンタ、もしかして身体中にタトゥーが入っているんじゃないでしょうね?」と聞くと愛奈さんは「ピンポーン♪」と無邪気に答えたという。
「その後家に戻り、愛奈の全身を確認したところ首から下の半分以上が灰色に染まった感じでタトゥーが入っていました。どれも洋風な感じ(※個人の特定を避けるため細かい描写は割愛)のデザインでしたし、おへそには大きな指輪がついていました。股間のはさすがに見ていませんが、ショーツの股の部分がデコボコと盛り上がっており、カラカラという音も聞こえました。私の知っている娘の身体じゃありませんでした」
敏子さんはあまりの衝撃にその場にへたり込んでしまったそうだが、愛奈さんは「ママには理解できないかも知れないけど、これは自分の身体に施した芸術なの」と胸を張ったという。
「留学中の写真を見ても、同じような見た目の人ばかりでした。私は芸術のことは分かりませんが、そういうコミュニティの中で娘が影響を受けたことは理解できました」
敏子さん以上にショックを受けたのは、愛奈さんの父親(58歳)だ。
「夫は『そんな身体じゃ嫁に行けないどころかまともに働くこともできないぞ!』と激怒しました。そのまま親子で大喧嘩になり、興奮して血圧が上がり過ぎた夫が救急搬送される騒ぎになりました」
両親すら受け入れてもらえなかった愛奈さんは、結局「日本は暮らしにくい」と言い残し、1カ月もたたないうちにフランスに戻ってしまったという。
取材・文/清水芽々
清水芽々(しみず・めめ)
1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。
