ヤス・マリーナ・サーキットで行なわれたアブダビ・ポストシーズンテストに、メルセデスはプロトタイプのフロントウイングを持ち込んだ。
このテストでは、大きくレギュレーションが変わる2026年に向けて、来季仕様タイヤに関するデータの収集が行なわれた。テストにはミュールカー(2026年の低ダウンフォースレベルを再現するため改造されたマシン)が持ち込まれ、各チームはダウンフォースを低減するためにモンツァを走行するのと同等レベルまでウイングを薄くし、車高を変更して走行した。
興味深い点として、FIAは特定の領域でプロトタイプのパーツを使った走行を許可した。適用される領域のひとつがフロントウイングだ。
新レギュレーションでは長らく使われてきたDRSが廃止され、アクティブエアロダイナミクスに置き換わる。これによりドライバーは全ストレートでフロントウイングとリヤウイングの両方を稼働させ、ダウンフォースを減らすことができる。そのためこれまでとは異なり、フロントウイングのフラップをアクティブ稼働させる必要がある(フロントウイングが可変する機構は、2009〜2010年には使用が許可されていたことがある)。
テストでアンドレア・キミ・アントネッリが走らせたメルセデスのミュールカーで、その未来の姿を垣間見ることができた。
今回のテストで披露されたメルセデスのシステムは未完成で、ウイングのアッパーフラップを稼働させるシステムが大きなチューブを介してノーズコーンに接続されている。フラップを動かすことで直線でダウンフォースを減らし、空気抵抗を削減することができる。
もちろん、2026年にはより洗練されたシステムが採用されるだろうが、このプロトタイプは各チームが直面している課題と試みを如実に示していると言えよう。
フェラーリも同様のコンセプトでデータを集めている。チームはプライベートテストで独自のプロトタイプをテストし、アブダビにもシステムを持ち込んだ。
これらのプロトタイプは、チームにアクティブエアロダイナミクスの早期知見を提供するだけでなく、ピレリにも貴重なデータをもたらす。アクティブフロントエアロダイナミクスを装備しないミュールカーと、同システムを装備した車両のデータを比較できるのだ。
ピレリはこのテストで、タイヤにかかる負荷を考慮して最高速を300km/hに制限したが、アントネッリのマシンはアクティブエアロが搭載されていたため、この制限が課されなかった。
ピレリのモータースポーツマネージャーであるマリオ・イゾラは「フロントストレートラインモードについて言えば、FIAはチームに対し、フロントウイングでこれを再現するシステムを開発する機会を与えた。その場合、当然ながら速度制限に従う必要はない」と説明した。
「システム未装着車と装着車を比較できる点でも有益だ。フェラーリとの初テストでは、負荷や達成値の観点から、このテスト結果を他の全テストと比較・検証し、今後のテストをより代表的なものにする上で非常に有用だった」
アクティブフロントウィングに加え、2026年に使われる予定のホイールリムと現行リムの中間的な”ハイブリッド”ホイールリムを使用したチームも存在した。今季までホイールリムはBBSのワンメイクだったが、来季からは各チームがそれぞれ、任意のホイールメーカーと契約することができる形に戻るからだ。
「場合によっては、チームが来年使用する予定のホイールリムに類似したテスト用リムの使用を要請することもある。当然ながら、リム設計の自由度はより高くなる。FIAからは、新規リムを用いた一定回数の走行が許可されている」とイゾラは語った。
ただし、これらのテスト結果は来季の状況を完全に再現するものではない。タイヤの熱管理はブレーキ性能にも大きく依存するが、2026年仕様のブレーキは現行と異なるためだ。アブダビのテストでは全チームが現行仕様のブレーキを装着していた。

