
『連続テレビ小説 ばけばけ Part1 NHKドラマ・ガイド』(NHK出版)
【画像】え…っ! 「出会ったときは18歳」「もう子供いた」 コチラがラフカディオ・ハーンの最初の妻の実際の写真です
やっぱり正式な結婚ではなかった
2025年後期のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』は『知られぬ日本の面影』『怪談』などの名作文学を残した小泉八雲(パトリック・ラフカディオ・ハーン)さんと、彼を支え、「再話文学」の元ネタとなるさまざまな怪談を語った、妻・小泉セツさんがモデルの物語です。
第11週53話では、主人公「松野トキ(演:高石あかり)」の未来の夫「レフカダ・ヘブン(演:トミー・バストウ)」が、アメリカのオハイオ州シンシナティにいた頃、「マーサ(演:ミーシャ・ブルックス)」という黒人女性と結婚していたことが明かされました。ヘブンはマーサを愛するあまり、オハイオ州の異人種間婚を禁じる法律を破って彼女と夫婦になります。
明日54話では、ふたりの結婚生活がなぜ破綻してしまったのかが語られる予定です。
※ここから先の記事では『ばけばけ』のネタバレにつながる情報に触れています。
ヘブンのモデルであるラフカディオ・ハーンさんは、ドラマで描かれた通り、1869年に19歳で渡米し、1872年頃、シンシナティ・インクワイアラーという新聞社で働き始めました。そして同時期に、下宿先で白人農園主と黒人奴隷の間に生まれたアリシア・フォリーさん(愛称:マティ)という女性と出会います。当時ハーンさんは22歳、マティさんは18歳でした。
ハーンさんは病気を患った際に、マティさんが献身的に看病してくれたことがきっかけで、彼女と恋に落ちたそうです。また、マティさんは自身が見たという幽霊の話をするのも得意で、ハーンさんを惹き付けたといいます。
ちなみに、『ばけばけ』のマーサには子供はいないようですが、マティさんには14歳のときに産んだウィリーさんという息子がいました。ケンタッキー州出身のマティさんは、奴隷制度の廃止後に働きながら各地を転々としていた頃に、スコットランド人の男性と出会って子供を作ったそうです。
そして、ハーンさんはインクワイアラー社の正社員になれた1874年の6月、州法を破り、周りの反対も押し切ってマティさんと結婚します。ただ、当時の異人種間婚への風当たりは強かったそうで、ハーンさんはアパートを借りるのにも苦労し、職場でも正社員の地位を失って、1875年に給料の安いコンマーシャル社というライバル紙に転職しました。
また、マティさんも、どんどんハーンさんへのあたりが強くなっていったそうです。ハーンさんとセツさんの長男・小泉一雄さんの書籍『父小泉八雲』には、「(マティは)同棲生活の間に、日頃にプラウドになり、我儘が募り、不躾に金品をのみ強要するに至った」という記述があります。
そして、1877年頃にふたりの結婚生活は終わりを迎え、ハーンさんはニューオーリンズに移住しました。マティさんはその後、シンシナティで靴職人の男性と再婚して彼が死ぬまで連れ添い、晩年は息子のウィリーさんの家に引き取られて穏やかに過ごしたそうです。
また、マティさんはハーンさんが1904年に亡くなった2年後の1906年、彼の元妻として遺産を請求する裁判を起こした記録があります。この裁判はアメリカ国内で大々的に報道され話題になりましたが、1874年当時の結婚が法的に認められていなかったことや、記録が火事で焼失していたことが理由で、マティさんは敗訴してしまったそうです。
『ばけばけ』でどこまで描かれるかは不明ですが、ヘブンが亡くなった後の話もあるなら、元妻・マーサの名前がまた物語に出てくるかもしれません。
※高石あかりさんの「高」は正式には「はしごだか」
参考書籍:『八雲の妻 小泉セツの生涯』(潮出版社)、『小泉八雲 ラフカディオ・ヘルン』(中央公論新社)、『小泉八雲 漂泊の作家 ラフカディオ・ハーンの生涯』(毎日新聞出版)、『父小泉八雲』(小山書店)
