認定NPO法人チャリティーサンタが運営する「ブックサンタ」は、経済的な理由などで困難な状況にいる子どもたちに、新品の本を届けるプロジェクトだ。多くの人の善意に支えられ、飛躍的に成長を続けるこの活動は、いかにして生まれたのか。代表理事の清輔夏輝氏に、活動に込めた想いと、その裏側にある苦労、そして未来への展望を聞いた。
「クリスマスなんて嫌い」という叫びが活動の原点だった
「ブックサンタ」の活動は2017年に始まり、昨年は13万冊を超える本が寄付され、累計寄付冊数は40万冊を突破した。参加方法はシンプルで、全国1,851の参加書店で贈りたい本を選び、レジで寄付するだけ。その本が、全国の子どもたちのもとへ届けられる。
――まず、ブックサンタの活動を始められたきっかけから教えていただけますか。
清輔夏輝(以下略) もともと私たちは2008年から、サンタクロースが各家庭にプレゼントを届けるという活動を行っていました。ただ、2015年頃に活動を振り返る機会があり、当時の活動には「課題」があることに気づいたんです。というのも、サンタを呼ぶには費用がかかり、プレゼントもご家庭で準備してもらう必要があった。そうなると、私たちの活動が届くのは、比較的豊かなご家庭が非常に多かったのです。
――活動を届けたい層に、届いていなかったと。
はい。そこで、これまで届けられていなかったご家庭にもヒアリングをさせてもらう中で、あるシングルマザーの方から叫びのようなメールが届きました。クリスマスの直前だったと思います。「クリスマスなんて嫌い。来ないでほしい」と。
――衝撃的な言葉ですね。
「仕事も3つ掛け持ちして、子どもたちのためにこんなに一生懸命頑張っているのに、世間は楽しそうにしている。私にはそんな余裕はない」。そういった内容でした。プレゼントを買いに行く時間もお金もない、私は祝ってあげることができない、と。
――そのメールを受け取って、どう感じましたか?
まず、ショックでした。そして、なんとかしたい、と思いました。ただ、ボランティアはいましたがすぐ動くことはできないですし、そもそもどこのどなたかも分からなかった。何もできない自分に、非常にはがゆい気持ちになりました。結局、途中で返信が来なくなってしまい、その方とはそれ以上のやり取りは続けられませんでした。
――その経験が、今の活動に繋がっている。
はい。その出来事をきっかけに、困窮家庭の子どもたちにプレゼントを届ける活動に力を注いでいこうと強く思いました。この体験が、ブックサンタの根底に流れる大きな原動力になっています。
――さまざまなプレゼントがある中で、なぜ「本」を選ばれたのでしょうか。
当初は企業から協賛品を集めて届けることも試みましたが、うまくいきませんでした。どうしても、子どもたちが本当に喜ぶものではなく、企業が提供したいもの、なんとか準備できたものになってしまう。それでは、私たちの理念である「子供第一主義」に反するのではないか、と。
――大人の都合ではなく、子どものためのプレゼントであるべきだと。
そうです。では、安定的に準備できて、子どもたちが本当に喜んでくれるものは何か。そう考えて行き着いたのが「本」でした。本は、流行りのおもちゃのように1年経ったら価値が大きく変わるということがありません。それに、男の子も女の子も、年齢に合わせて必ず合うものが見つかる、そこが良いなと思いました。
――そこから、書店さんと連携する現在の形が生まれたのですね。
2017年に、日本出版販売(日販)の方とブレストをする機会がありました。日販さんは「書店を盛り上げたい」、私たちは「安定的にプレゼントを集めたい」。その両者の想いが合致し、2回目のミーティングの途中で「これだ!」と現在の仕組みを思いついたんです。本当に運命的な出会いでした。
「自分だけの本」がもたらした少女の変化
――活動を通じて、特に印象に残っている子どもからの反応はありますか?
たくさんありますが、ある女の子の話は忘れられません。もともと本を読む習慣がほとんどなかった子なのですが、ブックサンタで 「自分だけの本」を手にすると、どこに行くにも持ち歩くほど夢中になったそうです。
――「自分だけの本」「自分が所有している本」というのが特別だったのですね。
はい。1年ほど経ってからお母さんに見せてもらったその本は、すごく大切にしているはずなのに、ボロボロになっていました。毎日外に持ち歩くからです。そして、中には付箋がびっしりと貼られていました。
――どんな本だったのですか?
世界中の女性の偉人、過去から現在まで100人を紹介する本でした。彼女はその本を毎日1人ずつじっくり読んで、「この人みたいになりたい」という憧れの人を見つけたそうです。その方は外交官のような、世界で活躍する職業の人で、それがきっかけで彼女は「私も日本だけでなく世界で活躍できる人になりたい」と、すごく勉強を頑張るようになったと聞きました。
――1冊の本が、子どもの未来を変えるきっかけになった。
まさにそうですね。私たちが届けたかったのは、単なるモノとしての本ではなく、そうした体験やきっかけだったのだと改めて感じさせられました。その本は、あまりにもボロボロになっていましたし、私たち団体の手元に置きたいと考えましたので、「新しいものを買いますので、譲ってもらえないですか?」とお願いしてみたのですが、「これがいい」と断られてしまいました。それだけ彼女にとって、かけがえのない宝物になったのだと思います。

