
イライザ役のシャーロット・ケイト・フォックスさんプロフィール写真
【画像】えっ「めっちゃ美人」 コチラが『ばけばけ』イライザのモデルで小泉八雲の伝記を書いた女性ジャーナリストです
イライザの話はいつ出てくるのか
2025年後期のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』は『知られぬ日本の面影』『怪談』などの名作文学を残した小泉八雲(パトリック・ラフカディオ・ハーン)さんと、彼を支え、「再話文学」の元ネタとなるさまざまな怪談を語った、妻・小泉セツさんがモデルの物語です。
第11週53話では、主人公「松野トキ(演:高石あかり)」の未来の夫「レフカダ・ヘブン(演:トミー・バストウ)」が、アメリカのオハイオ州シンシナティにいた頃、下宿先で「マーサ(演:ミーシャ・ブルックス)」という黒人女性と出会い、結婚していたことが明らかになりました。明日の54話では、ヘブンが彼女との夫婦生活で犯した過ちが描かれるそうです。
ギリシャで生まれてから各地を転々としてきたヘブンの人生がついに具体的に語られ、彼の悲しい過去にSNSではさまざまな反応が出ています。
また、一部の視聴者からは
「あんなにマーサ大切にしてたのに、今ヘブンが心のなかで語りかけるのはマーサではなくイライザなのなんで」
「イライザはヘブン先生にとってどういう存在なのか、ますます謎が深まったぞ」
「ヘブンさんの過去の話、写真の女性イライザが結婚した相手かと思いきや、全然違うマーサさんが出てきて、さらに結婚してて驚き。ここから何があってマツエに来てるのー?気になるよー!」
「ヘブン先生にとって過去に婚姻関係にあった女性ではなかったイライザとは一体どんな存在なのか、なぜあんなにも支えになっているのか、ますます知りたくなった」
と、ヘブンが写真を飾ってよく語りかけている女性「イライザ・ベルズランド(演:シャーロット・ケイト・フォックス)」のことが、さらに気になったという声があいついでいました。54話でヘブンがイライザについても語るのか、注目している方も多いようです。
イライザは第10話(時代は1886年)で、当時ルイジアナ州ニューオーリンズの新聞社で働いていたヘブンの同僚として、一度だけ登場しています。その際、彼女はヘブンに日本に取材に行くことを提案していました。
そんなイライザのモデルは、ラフカディオ・ハーンさんがニューオーリンズのタイムズ・デモクラット社で働いていた頃の同僚、エリザベス・ビスランドさんだと思われます。ハーンさんの11歳年下の彼女は、彼が書いた記事に感銘を受け、1882年に21歳で同社に入社しました。
ハーンさんが、アリシア・フォリーさん(愛称:マティ)という白人と黒人の混血の女性とオハイオ州の法律に違反して結婚していたのは、1874年6月から1877年夏頃までと言われています。当時の異人種間婚への風当たりは強く、ハーンさんは当時勤めていた新聞社での正社員の立場も失い、マティさんとの関係も悪化して結婚生活は破綻してしまいました。
そして、ハーンさんは1877年10月にシンシナティを去ってニューオーリンズに移住し、1878年6月からデイリー・シティー・アイテムという新聞社の記者として再出発します。そして、1881年12月にタイムズ・デモクラット社へ文芸部長として迎えられました。
ハーンさんがビスランドさんと同僚になるのは、マティさんと別れてから5年後のことなので、今回のヘブンの回想では、まだイライザとの出会いまでは語られない可能性が高そうです。

小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の写真(1889年頃) Frederick Gutekunst, Public domain, via Wikimedia Commons
先に日本に来ていたイライザのモデル
ビスランドさんは、ジャーナリストとしてどんどんキャリアアップしていき、1887年頃にはニューヨークに移住して「コスモポリタン」という雑誌の編集者になりました。そして、彼女は1889年11月に小説『八十日間世界一周』(著:ジュール・ヴェルヌ)をモデルにした世界一周旅行の企画に出発し、ハーンさんよりも先に日本の横浜を訪れています。
長い滞在ではなかったものの、日本に魅了されたビスランドさんは帰国後にコスモポリタンに記事を書き、さらにさまざまな体験談をハーンさんに語ったそうです。
その後もハーンさんは生涯にわたってビスランドさんと親交があり、1890年の来日後も彼女と何度も手紙のやり取りをしていました。ハーンさんと小泉セツさんのひ孫である小泉凡さん(小泉八雲記念館の館長)は、『セツと八雲』という書籍で、ハーンさんとビスランドさんの書簡を引用し、「ふたりの間柄には機微があり、相思相愛の『心の恋人』という趣が感じられます」と語っています。
ただ、ハーンさんとビスランドさんが恋人になったことはなく、彼女は1891年にニューヨークでチャールズ・ウェットモアさんという弁護士と結婚しました。ハーンさんとセツさんが夫婦になったのも、同じ年です。
そんなビスランドさんはハーンさんが1904年に亡くなったあと、自ら編集も担当した伝記『ラフカディオ・ハーンの生涯と書簡(The Life and Letters of Lafcadio Hearn)』(1906年)を発表しています。この伝記の収益は、妻のセツさんや小泉家の子供たちに贈られたそうです。また、ビスランドさんは、後年に何度か来日した際、必ず東京の小泉家を訪問したといいます。
ビスランドさんは、ハーンさんの生涯を語る上で欠かせない人物のひとりです。彼女がモデルだと思われるイライザも、今後重要キャラとして本編に本格的に登場すると思われます。楽しみに待ちましょう。
※高石あかりさんの「高」は正式には「はしごだか」
参考書籍:『小泉八雲 ラフカディオ・ヘルン』(中央公論新社)、『小泉八雲 漂泊の作家 ラフカディオ・ハーンの生涯』(毎日新聞出版)、『セツと八雲』(朝日新聞出版)
