「拘束時間の長さ」や「チケット代の高さ」が理由で、若者の観劇離れが進んでいるそうだ。
なにしろ普段見るものといえば、スマホの縦画面に合わせて背景や周囲の動きなどが画角からカットされた、15秒から60秒程度のショート動画。ドラマや映画を見るにしたって、タイパだなんだと言って、倍速視聴。そんな今の若者だもの、スワイプも再生速度の変更もできずに、時には休憩も挟まずに、物語をずっと見るなんてことは、苦痛でしかないのかもしれない。
しかし、勿体ない。勿論、どんなものにもピンからキリまであるのは「舞台演劇」だってそうなのだが、「上質な演劇」を超える娯楽はないと思うから。
新橋演舞場で公演中の、劇団☆新幹線45周年興行・秋冬公演「爆烈忠臣蔵~桜吹雪THUNDERSTRUCK」を見てきた。
これから見に行くのを楽しみにしてる方もいるだろうから、細かいことは書かないが、そのあらすじは…。
時は天保、ある山奥の地。江戸で活躍した役者・荒村荒蔵の娘・お破(やぶ)は幼少より、父・荒蔵から「嘘を真に変える芝居の力」を叩き込まれる。芝居の神様・月影大御神の加護を受けたお破は、「仮名手本忠臣蔵」の大星由良之助を演じるような花形役者になるのを目指して、江戸に向かった。しかし江戸の芝居小屋の面々は、父・荒蔵と深い因縁があったようで…。
途中30分の休憩を挟み、2幕の合計時間は3時間超という大ボリューム。この時点で腰が引ける者はいるだろうが、ご安心を。
お破を演じる小池栄子はドラマ・映画のみならず、舞台でもさすがの演技力でグイグイ引き込む(その上、初めてのナマ小池栄子はとんでもなく可愛かった)。
早乙女太一の殺陣は毎度のことながら、それだけで金が取れる素晴らしさ。古田新太は唯一無二の存在感と(演出家いのうえひでのりの、パンフレットに寄せた言葉を借りれば)省エネ芝居で、さすがの看板俳優ぶりを見せつける。
彼らだけではない。客演の向井理をはじめ、他の役者たちも今回の物語の根幹であろう「役者が芝居を演じる悦び」を全身から「これでもか」というほど放出させる。
大河ドラマに「史実と違う」なんて無粋ないちゃもんを付けるような輩はハナから相手にしない、荒唐無稽で破茶滅茶なストーリーをド派手な演出とロックな歌で彩るのは、劇団☆新幹線のお約束。笑って、驚いて、いつの間にか「上質な演劇」だけが与えてくれる最上級のカタルシスにやられ、しまいには何故か涙が止まらなくなる始末。「最高!感動!大満足!」で、盛大なスタンディングオベーションとともに幕は閉じた。
ところがだ、私が見たのは平日の火曜日、しかも12時開演ということもあるだろうが、終演後、よくよく客の顔ぶれを見てみたら、私も含めて中高年ばかり。「45周年興行」を打つ劇団だから「昔から大好き」というファンの年齢層が高くなるのも無理はないが、ここまで若者がいないものなのかと寂しくなった。
そりゃ確かに、私が見た1等席のチケット代は1万6000円(税込)もする。「興味がある」程度の若者にとっちゃ、かなりの高値だ。いや、私だって懐事情を考えりゃ、安い買い物じゃあない。
ただね、見終わった時には、ヘタすりゃ人生変わっちゃうかもしれない満足感が待っているから。若者たちよ、騙されたと思って少しばかり金を工面して、一度でいいから「上質な演劇」ってやつを見てはくれないか。
(堀江南/テレビソムリエ)

