お歳暮商戦真っただ中の今、定番中の定番とされてきた歳暮用ビールの販売状況が、目も当てられないことになっている。12月10日、サッポロビールが北海道限定の歳暮用ビールセット3品の販売を停止すると発表した。
アサヒグループホールディングスのシステム障害の影響で、サッポロビールへの注文が急増したことで対応が追い付かないとして、歳暮用ビール15品の販売を停止していた。そして今回の決定により、ついに歳暮ビール全ての販売を取りやめることとなったのである。
アサヒビールがランサムウエア(身代金要求型ウイルス)とみられるサイバー攻撃を受け、システムに障害が発生したのは9月29日だ。商品の受注や出荷が遅れたことで、歳暮向け商品の需要が他社に流れたが、キリンビールではあまりの受注量に生産が間に合わず、歳暮向け商品の販売を12月1日出荷分から停止した。
サントリーも当初予定した18品目のうち13品目を休止し、5商品に絞って販売を継続。2カ月以上が経過した今もなお、その余波は収まっていない。
流通ジャーナリストが語る。
「確かにシステム障害発生後、アサヒの顧客が他社に流れることで、サッポロ、キリン、サントリーはシェア拡大の大チャンスといわれました。ところが、結果は惨憺たるものだった。その理由が、徹底した効率化を追求して在庫を極限まで減らすという、ビール業界が敷く『ジャスト・イン・タイム(JIT)』体制にあったのです。つまり十分な在庫や生産余力がないため、注文が殺到すれば瞬時にパンク状態に見舞われるということ。アサヒの出荷がストップした瞬間、この効率化システムが仇となり、ビール業界全体が連鎖的な機能不全に陥ってしまったわけです」
なるほど、そうなると、今回のターゲットにされたのはアサヒビールだったが、仮に他社にサイバー攻撃が行われ、システム障害が起きた場合でも、同様の事態が勃発していた可能性があったことになる。
「つまり日本のビール市場というのは表面上、激しい競争を繰り広げながら、実は物流最前線では常に共倒れのリスクを抱えている。それが、偽ざる実態なのです」(前出・流通ジャーナリスト)
そんな日本のビール業界各社のドタバタ劇を尻目に「ビール難民」の受け皿となるべく、激しい攻防戦を繰り広げているのが、ハイネケンやバドワイザー、あるいは国内ビール会社がライセンスを持つペローニ、ギネス、バドワイザーなどの海外プレミアム銘柄だ。専門家によれば、これらの銘柄は「普段自分では買わない、ちょっと贅沢なビール」という歳暮のニーズにマッチし、そのまま定着する可能性が指摘されている。
日本の大手ビール会社は、聖域を死守することができるのだろうか。
(灯倫太郎)

