
モデルやアーティストなど多彩なジャンルで活躍するマルチクリエイター・LiLiの生誕イベント「I can’t play the guitar 2025」が12月3日に開催された。その様子をリポートする。
■オンライン発の企画が、待望のフルバンド編成ステージに
第4回目となる今回の生誕イベント会場は、過去最大規模の恵比寿ガーデンホール。SNSで人気を集める1999年生まれのインフルエンサーとして、YouTubeやInstagramを中心に活動してきた彼女は、ここ数年でフォロワーを一気に増やし、いまや若い世代のファッションやライフスタイルのアイコンとしても知られる存在である。
シンガーとしてのLiLiを思い浮かべるときに、まっさきに想起されるのは、YouTubeのサブチャンネル「僕はギターが弾けない」での活動だろう。その中でも、いきものがかり「コイスルオトメ」のカバーは300万回以上再生され、彼女の歌声を広く知らしめた代表的な動画になっている。そんなオンライン発の企画を、フルバンド編成のリアルなステージへと拡張したのが、この生誕イベントであった。
■「ドーナツホール」「幸福論」、2曲で一気に最高潮へ達したオープニング

開演時間を少し回った頃、先に登場したバンドメンバーへ大きな拍手が送られる中、ステージ中央に姿を現したLiLiは、この日のために一からデザインしたという衣装に身を包み、静かにマイクスタンドの前に立つ。シンバルのカウントを合図に飛び込んだ1曲目は、米津玄師がボカロP時代に発表した楽曲、「ドーナツホール」。原曲が持つスリリングな疾走感はそのままに、ドラマチックなダイナミクスを強調したバンドアレンジが、ホール全体を一気にライブハウスのような熱量へ変えていく。歌い出しから声の芯が強く、音域の起伏が激しいメロディを軽やかに乗りこなしていく姿に、日頃スマホの画面越しに楽曲を聴いてきたファンも、あらためて生の声の説得力を思い知らされたはずだ。
続く2曲目は椎名林檎の「幸福論」。切れ味のあるバンドサウンドに乗せて鋭く言葉を刻むその歌唱は、原曲のニュアンスを踏まえつつも、どこかLiLi自身の現在の心境を重ね合わせているように響く。客席ではペンライトが一斉に灯り、シンプルなステージセットながら、色とりどりの光がホールを埋め尽くしていく。冒頭2曲を駆け抜けたところで、会場の温度は一気に最高潮に到達した。
■等身大のMCから一転、yamitsuki楽曲で響かせたエモーショナルな“生”の歌声
最初のMCでは、客席に広がる1,000人規模の景色を前に「ちょっと信じられない」と目を丸くしながらも、飾らない言葉で感謝を伝える。YouTubeでのカバー企画「僕はギターが弾けない」のコンセプトをライブに持ち込んだこと、そして「自分が好きな曲、みんなにも聴いてほしい曲を紹介する感じで選びました」と、この日のセットリストに込めた思いを明かす。大きな会場でのコール&レスポンスにまだ慣れていないと笑いながら、「イェーイ!」の練習を何度か繰り返すやり取りも含め、SNSの投稿や動画で見る距離の近いLiLiそのままの空気感がステージ上に立ちのぼっていた。
そんな自然体のMCから一転して、4曲目に披露された「NOWANSWER」では、ステージのムードがガラリと変わる。 重心の低いバンドサウンドの上で、感情の揺れをそのまま乗せるようなロングトーンが響き、ホールの空気が一段と密度を増していく。続く「ノットコールド」は、yamitsukiとLiLiのコラボ楽曲の系譜に連なる、スケールの大きなロックバラード。緩急の効いた展開の中で、エモーショナルな高鳴りを、肉体性のあるロックバンドの音で生々しく表現してみせた瞬間であった。
中盤のMCでは、グッズ紹介のコーナーも。自身のビジュアルをあしらったアイテムや、日常使いしやすいデザインのグッズを、通販番組さながらのテンションでプレゼンテーションしてみせる。「持ち物まで含めてLiLiの世界観を共有したい」というファンの気持ちに応えるファッションやライフスタイルの提案を得意としてきたクリエイターらしい姿が垣間見えた。
■過去の自分との共演、そしてドラマ“聖地”での奇跡。物語が交差した本編後半

空気が少し和んだところで始まったのが、オリジナルよりも一層しっとりとしたテンポ感で届けられたORIGINAL LOVEの「接吻」。紫のペンライトが客席を染める中、語尾をわずかに震わせるようなニュアンスでフレーズを丁寧に置いていく歌い方は、バンドを従えるというより、バンドと一緒に呼吸を合わせながらひとつの物語を紡いでいくようでもある。そこからYUIの「グッバイデイズ」へとつながっていく流れも見事だ。映画主題歌として知られるこの楽曲を、甘酸っぱさだけでなくどこか達観したような視点もにじませて歌い上げることで、曲のなかにある時間の経過や成長のニュアンスがより立体的に浮かび上がっていた。
本編のハイライトのひとつと言えたのがマカロニえんぴつの「ヤングアダルト」である。ステージ背面のスクリーンには、約2年前に「僕はギターが弾けない」に投稿された、部屋でのセルフ撮影による弾き語り動画が映し出される。その映像のLiLiと、いま目の前でフルバンドを背負って歌うLiLiが、同じ曲を違う時間軸でなぞっていく。スマホやPCの画面から始まったひとりの歌が、いつの間にか1,000人を超える観客の前で鳴らされている、そんなオンラインとオフラインの距離感の変化を、観客自身もその場で追体験しているような感覚があった。
MCで恵比寿ガーデンプレイスという場所に触れた流れから披露されたのは、『花より男子2(リターンズ)』の挿入歌としても知られる宇多田ヒカルの「Flavor Of Life」であった。今回の会場である恵比寿ガーデンプレイスは、まさにそのドラマのロケ地にもなった場所だ。その土地で、あの名曲を響かせる光景は、まるで映像作品の一場面に迷い込んだかのようであり、LiLi自身が青春ドラマの主人公へと自然に重なっていくような、独特のメタな魅力に満ちていた。
本編ラストを飾ったのは、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「ソラニン」。「さよなら」という言葉が何度も繰り返される歌詞と、最後に向かって加速していくアンサンブルが特徴的だ。その両方が、今日この日という特別な時間の終わりを予感させつつも、決して暗さだけに傾かない前に進むための別れとして響いていた。エンディングでバンドが一気にボルテージを上げると、客席からは自然と大きなクラップが起こり、ステージを去るLiLiに対して「いかないでー」という声が飛び交う。
■代表曲「コイスルオトメ」の進化…歌うクリエイター・LiLiが提示した未来

アンコールでは、Tシャツに着替えたカジュアルな装いで再登場。スツールに腰掛けて歌った、いきものがかりの「コイスルオトメ」は、彼女のキャリアを語る上で欠かせない1曲だ。近年、原曲が改めて注目を集めるなかで、LiLiのカバー動画はオンライン上で独自の広がりを見せてきた。その楽曲を、いまや自分の名前で1,000人規模のホールで歌っている、その事実を噛みしめるように、1フレーズごとに丁寧に感情を乗せていく姿が胸に残る。
最後のMCは、2025年の1年を振り返る時間になった。上半期は「Netflixを観てばかりで堕落していた」と笑いながらも、下半期にかけて仕事が急増し、生活リズムが大きく変わったと今年を振り返り、2026年は「ワークライフバランスを大事にしつつ、動画投稿もしっかり続けていきたい」と抱負を語ると、ステージにはバースデーケーキが登場。客席からは「おめでとー!」の声もあがり、記念撮影へ。SNSで見慣れた自撮り文化が、ここではアナログな集合写真へと姿を変え、オンラインとオフラインの境界線をやさしく溶かしていく。
ラストナンバーに選ばれたのは、クリープハイプの「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」。疾走感のあるバンドサウンドに乗せて、「さよなら歌姫 最後の曲だね」という象徴的なフレーズを含む歌詞がつづられるこの曲は、歌うことに人生を賭けたひとりの歌姫への惜別と、その背中を見てきた語り手の感情を描いた楽曲だ。LiLiがその曲を自分の生誕祭の最後の1曲として選んだという事実は、ファンへの感謝であると同時に、「今日の主役は私であり、同時にあなたたち一人ひとりでもある」というメッセージにも聞こえる。
こうして振り返ると、「I can’t play the guitar 2025」は、単なるカバーイベントでも、よくあるバースデーライブでもなかった。ボカロ曲から90年代J-POP、自身のオリジナル楽曲まで、日本のポップス史のさまざまな地点から選び抜かれた楽曲群を、自らの声を通して編み直していく一夜だったと言えるだろう。ギターを自分で弾かなくても、楽曲の背景や物語に自分なりの意味を見いだし、言葉と声でそれを届ける、そうした歌うマルチクリエイターとしてのあり方を、LiLiはこのステージで力強く提示してみせた。

文=Z11

