最新エンタメ情報が満載! Merkystyle マーキースタイル
「ありのままの自分を愛そう」の前に、できること…ミドサーのリアルな試行錯誤を描く『まだまだ大人になれません』

「ありのままの自分を愛そう」の前に、できること…ミドサーのリアルな試行錯誤を描く『まだまだ大人になれません』

仕事も趣味もマンションも猫も友人も持つ、ミドサー兼業文筆家ひらりささん。リア充すぎる自立した都会の女性……かと思いきや、悩みは「大人になれないこと」!?自分を好きになるために試行錯誤するひらりささんの最新エッセイ『まだまだ大人になれません』をレビューします。

「ありのままの自分」と取っ組み合う

世にあふれる、「ありのままの自分を愛そう」「人と比べるのは不毛」「選んだ道を正解にする」という声・声・声。

キラキラした虚像に心を乱されて、世界に一人しかいない自分を見失うのは本末転倒。それはそう、正論過ぎてぐうの音も出ません。でもこの「正しすぎる声」に、逆に苦しんでいる人も多いのではないでしょうか。

ブレブレなのってカッコ悪い?

自分の判断に自信が持てないってみっともない?

どうしても自分が好きになれない、私ってお子さま?

『まだまだ大人になれません』(ひらりさ/大和書房)

「そんなことないよ。それこそ生きるってことだよ」

『まだまだ大人になれません』は、そんな風にカフェの隣の席から声をかけてくれるような一冊。

著者は、平成元年生まれ、兼業文筆家のひらりささん。フルタイムで会社員として働きながら、オタク女子ユニット「劇団雌猫」メンバーとして、そしてエッセイストとして、女性と社会をテーマに執筆活動をされています。

東大卒で、フェミニズムを学びに海外留学していた経験もあり。フルリノベしたマンションで猫と暮らし、仕事に趣味に社交に毎日大忙し……どこからどう見たって自由でリア充なミドサー女性にしか見えません。

そんなひらりささんがエッセイを書くなら、テーマは「私の素敵な東京ライフ」でもよかったはず。しかし本書で語られるのは、「ありのままの、ままならない私」との取っ組み合い。その正直さに驚きつつ、ひらりささん特有の落語的ユーモアにくすっと笑わされ、読むほどに孤独感が薄れていく。まさに帯通り、「メンタルリカバリーエッセイ」です。

埃をかぶった「自分への期待」を引っ張り出す

急に美人になりたくなって、「100日後に美人になるチャレンジ」を始める。パーソナルトレーニング・バレエ・ピラティスに通いまくる一方で、大好きなお酒をやめられずに悶々とする。急に「自分の城」がほしくなって、35年ローンを組んで中古マンションを購入・フルリノベーションする。マッチングアプリのインストール・アンインストールを繰り返し、恋に浮かれて友人関係を破壊する(!)。

ひらりささんが赤裸々に綴る、ミドサー独身女性のトライ&エラー。なかなかの振り幅と強度で右往左往しており、「ちょっと落ち着け。そこ座れ」と声をかけたくなります。

しかし読むほどに、「もっと素敵な自分になる!」と叫ぶひらりささんに自分の心が共鳴していくんですよね。いつの間にかしまいこんでいた「自分への期待」を思い出し、埃をかぶったそれを、久しぶりに引っ張り出してみたくなる感じでしょうか。

改めて自己の欲望や先入観を見つめ直し、いまのままで肯定していい部分/やっぱり変えたほうがいいと感じる部分のあいだを探っていくよう試みた日々の記録が、本書です。――『まだまだ大人になれません』(ひらりさ/大和書房)より

「肯定できる自分」になるための試行錯誤は、自分にしかできない。セルフケアは人生をかけてする一大プロジェクトなんだと改めて思わされました。

配信元: パラナビ

あなたにおすすめ