
『連続テレビ小説 ばけばけ Part1 NHKドラマ・ガイド』(NHK出版)
【画像】え…っ! 「既に貫禄ある」「苦労したんだな」 コチラが4歳で母と生き別れた小泉八雲の、左目を失明したばかりの「16歳のときの写真」です
不遇な幼少時代のラフカディオ・ハーン
2025年後期のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』は『知られぬ日本の面影』『怪談』などの名作文学を残した小泉八雲(パトリック・ラフカディオ・ハーン)と、彼を支え、「再話文学」の元ネタとなるさまざまな怪談を語った、妻・小泉セツがモデルの物語です。
第11週55話では、主人公「松野トキ(演:高石あかり)」の未来の夫「レフカダ・ヘブン(演:トミー・バストウ)」が、「金縛り」にあう場面が描かれました。その際、彼は自分の母の姿を見たといいます。恐怖よりも母に会いたいという気持ちが勝ったヘブンは、翌日わざと金縛りになりますが、その際に見たのは同僚の「錦織友一(演:吉沢亮)」の生霊(?)だったようです。
55話の金縛りのエピソードにヘブンの母が出てきたのは、放送日の本日12月12日が彼のモデルであるラフカディオ・ハーンの母、ローザ・アントニウ・カシマチの命日だからだと思われます。
ギリシャのセリゴ島(現地呼称:キシラ島)出身のローザは1848年、セリゴ島に赴任していたアイルランド出身の軍医であるチャールズ・ハーンと出会います。ローザの家族は反対したそうですが、ふたりは駆け落ちのような形で結婚し、1850年6月27日に同じギリシャのレフカダ島でラフカディオが生まれました。1歳年上のロバートという兄もいたそうですが、早くに病死してしまったそうです。
その後、ラフカディオが2歳のとき、一家はチャールズの故郷であるアイルランドのダブリンに移住します。ただ、英語もあまり話せず、アイルランドの気候も合わないローザはだんだんと精神を病んでいったそうです。同じキリスト教徒でも、ハーン家がプロテストだったのに対し、ローザはカトリックに近いギリシャ正教を信仰していたことも障壁になったと言われています。
精神がおかしくなり、2階から飛び降りようとしたこともあったというローザは、ラフカディオが4歳のときに、セリゴ島に戻ってしまいました。彼女はラフカディオの弟・ジェームズを妊娠中で、セリゴ島で出産したそうです。
当時、父・チャールズもクリミア戦争に出征して不在だったため、ラフカディオは資産家の大叔母サラ・ブレナンに預けられます。その後、1857年1月に両親の離婚が成立し、チャールズはアリシア・ゴスリン・クロフォードという女性と再婚してインドに赴任、ローザもセリゴ島の有力者だったイオニアス・カバリニスと結婚して新たに4人の子供を作りました。カバリニスは、チャールズとの間に生まれたラフカディオとジェームズの養育は拒否したといいます。
その後、チャールズは1866年11月21日にマラリアに罹り48歳で病死、ローザも晩年に神経を病んでギリシャのコルフ島の病院に10年ほど入院し、1882年12月12日に59歳で亡くなりました。4歳で生き別れて以降、ローザと再会できなかったラフカディオは、彼女の死について具体的に知ることはできなかったそうです。
ちなみに、彼の長男・小泉一雄は著書『父小泉八雲』で、このようなエピソードを語っています。幼いラフカディオはあるとき、悪質ないたずらをしてローザに頬を叩かれました。彼はその痛みで、母の顔を覚えたそうです。「髪の毛の黒い、大きい黒い眼の日本人の様な小さい女」だったといいます。
『ばけばけ』では、ヘブンの生い立ちについてはすでにある程度語られたため、彼の母が回想で出てくることはもうないかもしれません。その代わりに、放送日がローザの命日である55話でヘブンが(金縛りによる幻覚とはいえ)母に会う、という場面が入れられたと思われます。
※高石あかりさんの「高」は正式には「はしごだか」
参考書籍:『小泉八雲 ラフカディオ・ヘルン』(中央公論新社)、『小泉八雲 漂泊の作家 ラフカディオ・ハーンの生涯』(毎日新聞出版)、『セツと八雲』(朝日新聞出版)、『父小泉八雲』(小山書店)
