コメント欄は常連さんの声を実態以上に大きく響かせる

今回の研究により、コメント欄は「社会の平均」をそのまま写す鏡というより、発言しやすい人だけを映す拡声器になりやすい傾向が示されました。
さらに荒れた空気は多くの人の口を閉ざしやすい傾向がありますが、残った少数の声をむしろ太くする追加のブースト効果も示されました。
攻撃的で居心地の悪い雰囲気だと多くの人々は沈黙しますが、一部の人々はその状況に刺激されて(ある意味、面白がって)投稿数を増していき彼らがコメント欄の主役となっていきます。
リード著者のリサ・オズワルド氏は「誰もがオンライン上で発言するようになるとは期待できない」と述べています。
むしろ重要なのは、少数の活発な声と大多数の沈黙が何を意味するのかを理解することだと言います。
ではどうすればこのような偏りを減らせるのでしょうか?
論文では、初投稿者や良質な投稿への見える形の報酬を増やすこと、あるいは一人あたりの投稿数に上限を設けることなどが検討に値すると述べています。
静かな人が一言だけ言いやすい入口を作り、同時に常連の独走を物理的に止める二段構え的な方法と言えます。
ただし、この結果を世界中の全てのSNS投稿に当てはめてしまうのは早計です。
今回の研究で扱ったテーマは政治的話題であり、趣味や科学に関するコメントとは一線を画します。
また研究では、数百万人が絡むような「劇的な炎上」は再現できておらず、攻撃性も(参加者たちが観察対象となったと自覚したためか)極端なものにはなりませんでした。
ですが読むだけの人を含めて同じ場に入れ、沈黙と常連化を同じ枠で分析した意義は大きいと言えます。
コメント欄がもし生き物だとしたら、静かな声を飲み込み、目立つ声を育てる性格を持っているのかもしれません。
今回の研究成果が多くの人に共有されれば、その“性格”を前提に、コメント欄という生態系をより冷静に見つめられるようになるでしょう。
参考文献
Online discussions: Whose voices are heard?
https://www.mpg.de/25857449/1210-bild-online-discussions-whose-voices-are-heard-149835-x?c=2249
元論文
Disentangling participation in online political discussions with a collective field experiment
https://doi.org/10.1126/sciadv.ady8022
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

