
水瀬いのりのアーティスト活動10周年を記念した全8公演のツアー「Inori Minase 10th ANNIVERSARY LIVE TOUR Travel Record」。そのファイナル公演が11月30日、神奈川・横浜アリーナで開催された。
■ここから始まる新しい私たちにもついてきてくれたらうれしいです
会場がペンライトの光でブルー(※水瀬のイメージカラー)に染め上げられる中、オープニング映像が流れ出す。そこに映し出されたのは、真っ白な道を鮮やかな景色に染め上げていく水瀬の姿。それはまさに彼女が歩んできたアーティストとしての、10年分の“旅の記録=Travel Record”だ。大きな歓声が巻き起こる中、ステージ中央に丸いスクリーンが現れ、そこに水瀬のシルエットが浮かび上がる。そして、純白のワンピースを纏った水瀬が「ファイナル、楽しんでいきましょう!」と力強く叫び、デビュー曲「夢のつぼみ」へなだれ込む。2017年に開催された初ワンマンをオマージュした演出で幕を開けたライブに、オーディエンスはしょっぱなから大きな盛り上がりを見せ、コールが会場を揺らしていく。冒頭で“♪キリンレモン キリンレモン”とアカペラで披露した後に、爽やかな世界を描き出した「まっすぐに、トウメイに。」、花道の先に用意されたセンターステージでタオルを回して楽しい時間を共有した「Ready Steady Go!」と、オープニングから勢いよく3曲が連続で披露された。
「好きだという気持ちでついてきてくれたみんながいたから今日、この場所に来れています。なので、最高のツアーファイナルをして、またステキな未来でみんなに出会える、そんな公演にできればと思っています。今日がゴールではなく、ここから始まる新しい私たちにもついてきてくれたらうれしいです。そんな気持ちで歌を届けていくので、みなさんぜひ受け取ってください!」
ファンへの感謝と未来への新たな決意を滲ませたMCを経て、「Catch the Rainbow!」「春空」という大切な歌を、広いステージの端から端まで動きながら歌唱。うれしそうな笑顔とともに思いを飛ばしていく。「Happy Birthday」のインストをバックに総勢7名のバンドメンバーを紹介した後は、衣装チェンジした水瀬が登場。自身の誕生石であるターコイズをイメージした色味の衣装で「アイマイモコ」「まだ、言わないで。」を。バンドメンバーとの楽しいやり取りを見せたMCの後、「アニバーサリー」では、ブルーに染まる会場の中、センターステージで今の思いを感情たっぷりに届けた。曲のラスト、大切なものを離さないように高く掲げた左手を強く握り、そっと胸に当てた水瀬の姿が印象的だった。続く「My Orchestra」では、バイオリンの音色と共にドラマチックなボーカリゼーションで会場を包み込み、感動的な光景が紡ぎ出された。

■好きだから真剣にずっとずっと向き合ってきたアーティスト活動でした
10年分の軌跡をまとめたメモリアルムービーを挟み、2度目の衣装チェンジをした水瀬が現れる。今度は黒と赤を基調としたパンツルック。そのスタイルに合わせるように「Starry Wish」「スクラップアート」といったクールな側面を打ち出す楽曲がプレイされていく。中でもカオティックなサウンドスケープの中、伸びやかで神秘的な歌を放った「NEXT DECADE」でのパフォーマンスは圧巻。10年の活動の中で手に入れた表現力の幅をしっかりと刻み付けた。
「ものすごいたくさんの難しい楽曲をいただいて、レコーディング当初はほんとにこれが生で歌えるのかなとかいろいろ考えたり。自分の歌い方とか、自分の歌声だったりとか、最大限この曲をいい曲にできているのかなと悩んだりすることもめちゃくちゃあって。でもやっぱり好きだから続けることができて、好きだから悩んで、好きだから涙して、好きだから真剣にずっとずっと向き合ってきたアーティスト活動でした」と、これまでをあらためて振り返る水瀬。続けて、「決してライブがたくさんあってもひとつとして同じ公演はなくて。必ずここでしか生まれないものに出会えているのは、みなさんのおかげです。これからもそんな日が続くように、何十年だって続くように、この曲をみんなと一緒に歌いたいと思います」と語り、「海踏みのスピカ」へ。天に向けて指を突き立て高らかに飛ばされる思いに、オーディエンスは激しいコールで呼応。曲の最後では割れんばかりの大合唱が巻き起こる。さらに、舞い落ちる羽根の映像とともに歌われた「TRUST IN ETERNITY」では、水瀬とファンの永遠の絆があらためてきつく結ばれていく。

■11周年12周年と私たちの旅はまだまだ続いていきます。これからも側にいてね
風船のシルエットが様々な場所を流れ飛んでいくブリッジ映像を挟み、ライブは後半戦に突入。美しいイエローのドレスを纏った水瀬は、ステージ前に現れた紗幕に投影される映像の中、まるで深海で歌っているかのような雰囲気で「BLUE COMPASS」をあたたかく届ける。センターステージで歌われた「Starlight Museum」では、感極まって涙を流すシーンも。こみあげる感情を飲み込みながら笑顔を浮かべて歌われた「ありがとう、好きだよ!」のフレーズに、10年を共に歩んできたオーディエンスの感情も大きく震える。
次のMCでは、コロナ禍により無観客で開催された初めての横浜アリーナ公演を振り返り、再び涙を流す水瀬。そして、「この涙も受け止めて、抱きしめて、焼きつけて、みんなで一つになりたいと思います」という言葉とともに「harmony ribbon」を、「好きになってくれて本当にありがとうございました。幸せな10周年イヤーです。みんなからもらった思いや願いや希望、そして愛をしっかり受け止めて、11周年12周年と私たちの旅はまだまだ続いていきます。これからも側にいてね」という言葉とともに「Innocent flower」をたっぷりの愛情を込めた歌声で響かせ、ハッピーなムードの中、ライブ本編は幕を閉じた。
この10年、ライブ前に必ず行われてきたバンドメンバーとの円陣&気合い入れの様子をダイジェストにまとめた映像をきっかけに、アンコールがスタート。水瀬が生み出したオリジナルキャラ“くらりちゃん”があしらわれたトロッコに乗りこみ、アリーナの外周をゆっくりと巡りながら「Turquoise」を届ける。観客一人ひとりと目線を合わせ、ファンサを笑顔で繰り出す水瀬の姿に観客が大きく沸く。「Million Futures」「HELLO HORIZON」「フラーグム」「glow」を歌い継ぐ自身初のメドレーを経て、メインステージに戻った水瀬は「夢のつづき」(作詞:水瀬いのり・絵伊子)を披露。“つぼみ”だった夢の花をたくさん咲かせてきた10年を噛みしめながら、その先の“つづき”をしっかりと提示してライブをエンディングへと導いた。が、この日はもう1曲、ダブルアンコールとして「僕らは今」を最後に用意。スタンドマイクを両手で包み込みながら自身の思いをメッセージし、それを受け取った観客たちの大合唱が巻き起こる中、10周年という大きな節目に新たなブックマークが挟みこまれた。それはきっと、未来に向けた次なる歩みの大切な指針となっていくのだろう。アーティスト・水瀬いのりの旅路は、これからも続いていく。
(取材・文=もりひでゆき)
■SETLIST
水瀬いのりアーティスト活動10周年記念ライブツアー
「Inori Minase 10th ANNIVERSARY LIVE TOUR Travel Record」
2025年11月30日(日)神奈川・横浜アリーナ
01. 夢のつぼみ
02. まっすぐに、トウメイに。
03. Ready Steady Go!
04. Catch the Rainbow!
05. 春空
06. アイマイモコ
07. まだ、言わないで。
08. アニバーサリー
09. My Orchestra
10. Starry Wish
11. スクラップアート
12. NEXT DECADE
13. 海踏みのスピカ
14. TRUST IN ETERNITY
15. BLUE COMPASS
16. Starlight Museum
17. harmony ribbon
18. Innocent flower
<アンコール>
EN1. Calling Blue(overture)〜Turquoise
EN2. Million Futures〜HELLO HORIZON〜フラーグム〜glow
EN3. 夢のつづき
EN4. 僕らは今

