元気ですか〜!(猪木風)。還暦ブレイクを本気で狙っている三又又三(58)です。
前回に続いて兄の話。
9つ上の兄は2016年の暮れに他界しました。
不動産会社で働き始めて、つくづく思うんです。僕はいい兄貴を持ったなって。というのも、生前にこんな教えを授けてくれたから。
「人は売る人を見て物を買う─」
兄は地元の岩手で歯科医をしていました。毎日のように製薬会社が売り込みにやってくる。それで気になって聞いてみたんです。
「なあ兄貴、製薬会社の営業がいっぱい来るよね? 値段で決めるの? 薬ってそんなに違いがあるの?」
「ないよ。値段も中身もそんなに変わんないんだよ」
「じゃあ、どうやって決めるんだよ」
僕が尋ねると、兄はこんな話をしてくれました。営業マンが訪ねてくると、プロレスが趣味の兄はこんな質問をぶつけるそうです。
「プロレス好きですか?」
聞かれたほうは「え!?」って驚くでしょうね。たいていの営業マンは「子供の頃は見てましたけど、最近は‥‥」と薄い反応しか示さない。でも、中にはいるわけですよ。後日、「週刊プロレス」を持って来て、
「先生、10年ぶりに『週プロ』買いましたけど、面白いですね〜」
なんて言ってくれる営業マンが。それからも兄の医院に来るたびにプロレスの話題で盛り上がる。そこで兄はこう思うわけですよ。
「この人はプロレスに興味がなかったのに、俺のために『週プロ』を毎週買ってくれる」
そして兄はその営業マンから薬を仕入れるんです。値段なんて気にしない。人を見て「この人から買いたい」と契約するんです。
不動産も同じです。家っていうのは何千万円もの大金が動く、一生に一度あるかないかの買い物。もしも家を建てようって思ったら、テレビCMをバンバン流している大手に頼みますよ。値段なんてそんなに変わりませんからね。
おまけに僕なんて、この業界に入ってまだ2年。知識や経験も素人同然ですよ。そんな僕でも、いくつも売買契約に漕ぎつけたのは、兄の教えのおかげだと思っています。
「三又のことが気に入ったから、ここで家を買う」
多くのお客様にこう思われるよう、日々のコミュニケーションに励むばかりです。
さて、兄が亡くなる3年ほど前、本人から電話で白血病になったことを知らされました。しかも血液を作る細胞が「何万人に1人」という珍しい型のようで、細胞移植のドナーになれる可能性があるとしたら、唯一の男兄弟である僕しかいないとのこと。兄は言いました。
「それでも確率は低いんだけどよ。手筈は整っているから、(東京の)広尾の病院に行ってくれないか」
検査の結果、兄と僕の造血幹細胞がピタリと適合していることが判明。その後、僕は兄がいる岩手の病院に1週間入院して、造血幹細胞を提供しました。無菌室にこもって、キツめの注射で血をキレイにしてから細胞を採取したりね。でも、兄のことを思えば全然、苦じゃなかった。
それでも兄は長い闘病の末、帰らぬ人となってしまいました。
葬儀の挨拶で甥(兄の長男)が、多くの親族を前にこう言ってくれたんです。
「叔父のおかげで、父は3年間、長く生きることができました」
参列者は涙、涙ですよ。
葬儀が終わって実家に戻ると、父にしみじみ言ったんです。「叔父のおかげで3年か‥‥いいこと言うよな」って。すると父は、
「バ〜カ! あそこのくだり、俺が入れろって言ったんだよ。わざわざ東京から来るんだからって」
とネタばらし。みんなで大笑いしたのもいい思い出です。
三又又三(みまた・またぞう)株式会社TAP所属のお笑い芸人。「踊る! さんま御殿!!」(日テレ系)、「志村けんのバカ殿様」(フジ系)等数々のバラエティーに出演。2023年より不動産会社に勤務し、芸人との二刀流で活動。今夏より漫才協会に入会。

