
『連続テレビ小説 ばけばけ Part1 NHKドラマ・ガイド』(NHK出版)
【画像】え…っ! 「出会ったときは18歳」「もう子供いた」 コチラがラフカディオ・ハーンの最初の美人妻の実際の写真です
実は子供がいた
2025年後期のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』は『知られぬ日本の面影』『怪談』などの名作文学を残した小泉八雲(パトリック・ラフカディオ・ハーン)さんと、彼を支え、「再話文学」の元ネタとなるさまざまな怪談を語った、妻・小泉セツさんがモデルの物語です。
第11週では、主人公「松野トキ(演:高石あかり)」の未来の夫「レフカダ・ヘブン(演:トミー・バストウ)」が、かつて結婚していたことが明らかになりました。アメリカのオハイオ州シンシナティで新聞記者をしていたヘブンは、下宿先で出会った「マーサ(演:ミーシャ・ブルックス)」という白人と黒人の混血の女性と恋に落ちます。
当時の州法では異人種間の婚姻は禁じられており、マーサ本人や結婚式を担当した牧師ですら「今なら引き返せる」と反対するなか、ヘブンは彼女と夫婦になりました。そして、それが原因でヘブンはせっかく正社員になれた新聞社を解雇され、ミーシャも自暴自棄になって傷害事件を起こすなど、事態はどんどん悪い方向に向かっていきます。結局ふたりは別れることになり、その後ヘブンはどの土地でも友人や恋人を作らずに、「通りすがりの人間」として生きてきました。
SNSではヘブンたちへの同情、当時の理不尽な環境への怒りなど、さまざまな声があいついでいます。また、
「離婚後、マーサはどんな暮らしを送っているのだろう…。せめて達者でいてほしい」
「ヘブンは転職して第2、第3の人生が歩めてるようだけど、その後のマーサの人生が心配。」
「先生の過去トテモカナシイ。どうかマーサさんのその後の人生に救いがあって欲しい」
「マーサさん、何度も事件起こしたみたいだし、もしかしてその後絞首刑になったりとかしてないよね」
「マーサ…今生きてるか…」
と、離婚後のマーサの人生を心配している人も多いようです。史実ではどうだったのでしょうか。
ヘブンのモデルであるラフカディオ・ハーンさんは、1872年にシンシナティの下宿先で、アリシア・フォリーさん(愛称:マティ)という白人の農園主と黒人奴隷の間に生まれた女性と出会い、74年に新聞社シンシナティ・インクワイアラーの正社員となったのちに彼女と結婚しました。
1854年にケンタッキー州で生まれたマティさんは、南北戦争(1861年~65年)やエイブラハム・リンカーン大統領の奴隷解放宣言の影響を大きく受けた世代です。奴隷の立場でなくなってからも、働きながら各地を転々としていたマティさんは、14歳のときにアンダースンさんというスコットランド人との間に生まれた、ウイリーさんという息子がいました。
まだ20代前半だったハーンさんはマティさんも連れ子も幸せにしようと、州法を破って彼女と結婚しますが、彼はインクワイアラー社を解雇されて、給料の安いコマーシャル社というライバル紙に転職することになります。
さらに、マティさんはハーンさんと結婚してから「高慢ちきでわがまま」になっていったと言われており、ふたりの関係はこじれていきました。そして、ハーンさんは1877年に彼女と別れ、ルイジアナ州ニューオーリンズに移住しています。
シンシナティに残ったマティさんは、1880年にクラインタンクさんという靴職人と再婚し、彼が死ぬまで20年以上ともに暮らしました。前述の息子のウイリーさんは、印刷所を経営しながらシンシナティの黒人社会のリーダーになったそうで、多くの恵まれない少年を引きとった立派な人物だったそうです。マティさんは晩年は息子の家で面倒を見てもらい、1913年に59歳で他界しました。
また、マティさんは1904年にハーンさんが日本で小泉八雲として死去した後の1906年、未亡人として彼の遺産を求め裁判を起こしています。しかし、1874年時の婚姻は違法で、マティさんは相続権を認められずに敗訴しました。そして、遺産は小泉セツさんや子供たちに渡っています。
史実通りなら、1891年時点でマーサも別の男性と再婚して、シンシナティで無事に暮らしているはずです。また、視聴者としては複雑な気持ちになる方が多いでしょうが、今後の物語でヘブンの遺産を求めて再登場する、という展開もあるかもしれません。
※高石あかりさんの「高」は正式には「はしごだか」
参考書籍:『小泉八雲 ラフカディオ・ヘルン』(中央公論新社)、『小泉八雲 漂泊の作家 ラフカディオ・ハーンの生涯』(毎日新聞出版)、『父小泉八雲』(小山書店)
