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完治不可能なのに軽視されがちな性病「性器ヘルペス」が増加傾向

完治不可能なのに軽視されがちな性病「性器ヘルペス」が増加傾向

完治不可能な性器ヘルペスとは!? / Credit:Canva

ここ数年、日本国内では梅毒の感染者数が過去最多を更新し続けるニュースが社会を騒がせてきました。しかし、私たちが警戒すべき性感染症は、決してそれだけではありません。

梅毒の流行の影で、静かに、しかし確実に広がっているのが「性器ヘルペス」です。単純ヘルペスウイルス(HSV)によって引き起こされるこの感染症の最大の特徴は、何と言っても「一度感染すると、現代の医学でも完治できない」という点にあります。

昨年末(2024年)、医学誌『Sexually Transmitted Infections』に発表された、世界保健機関(WHO)などの研究チームによる報告では、「世界の50歳未満の成人のうち、約5人に1人が性器ヘルペス(HSV)に感染」しているという。

これは日本においても他人事ではない問題です。

しかし、この問題は梅毒のように報道で見かける機会も少なく、中には感染して初めて治らないという事実を知ったという人もいるくらい軽視されている部分があります。

今回はなぜそのようなことになっているのかも含めて解説していきます。

目次

  • 完治不可能な「性器ヘルペス」があまり知られていない理由
  • 5人に1人が感染している性器ヘルペス!対策は?

完治不可能な「性器ヘルペス」があまり知られていない理由

性感染症は、エイズや梅毒だけじゃない / Credit:Canva

ここ数年、性感染症「梅毒」の感染者の急増が報告されており、ニュースなどでも度々扱われています。

また淋病やクラミジアなど他の性感染症も増加傾向にあります。

このような性感染症の増加の背景には、マッチングアプリやLGBTQ運動による性の多様化、ピル(経口避妊薬)使用のハードルの低下などがあると考えられます。

そして、これら完治可能な性感染症とは異なり、完治不可能な性感染症も広まっていることをご存じでしょうか。

これに該当する最も有名な病気は「エイズ」でしょう。

しかし、エイズ以外にも、性行為で知らないうちに感染してしまう完治不可能な病気が存在します。

それが「性器ヘルペス」です。

症例画像のためぼかしています。ぼかし無しで見たい方は画像をクリックしてください。/Credit:Canva

性器ヘルペスとは、単純ヘルペスウイルス(HSV)によって発症する性感染症です。

性器ヘルペスになると、陰部に多数の水疱ができ、痛みやかゆみが生じます。

これは、抗ウイルス薬の使用(治療を行わない場合でも2~4週間で自然治癒)で治療することができます。

しかし1度感染してしまうと、体内に潜んだ単純ヘルペスウイルスを完全に死滅させることはできません。

症状が治まったとしても、ウイルスは体内の神経節の奥深くに潜伏し続け、免疫力が落ちた際などに再発を繰り返します。つまり、一度感染すれば、生涯にわたってこのウイルスと付き合っていかなければならないのです。

これは性行為や唾液などを介して感染するため、「知らないうちに、完治不可能な性器ヘルペスに感染していた」ということもありえます。

ではこれほど厄介な病気でありながら、なぜ性器ヘルペスは梅毒やHIVのようにニュースで大きく取り上げられないのでしょうか?

その大きな理由は、病気の軽重ではなく、日本の感染症監視システム(サーベイランス)の仕組みの違いにあります。

日本では、放置すれば急速に蔓延して命に関わる梅毒やエイズは、診断したすべての医師に報告義務がある「全数把握」の対象です。一方で、性器ヘルペスは直ちに命を奪うものではないため、あらかじめ指定された一部の医療機関からしか報告が上がらない「定点把握」の対象にとどまっています。

国の考え方としては、ヘルペスはすでに社会に広く蔓延しており、全ての患者を数えることが現実的ではないため、流行の傾向さえ掴めればよいとされているのです。

しかし、この仕組みには落とし穴があります。定点以外の一般クリニックで診断された多くのケースは統計に表れません。つまり、私たちが目にする数字は「氷山の一角」に過ぎず、その背後には多くの「見えない感染者」が存在している可能性があるのです。

では、この性器ヘルペスは現在、どれくらいの人が罹患しているのでしょうか。

5人に1人が感染している性器ヘルペス!対策は?

単純ヘルペスウイルスの透過型電子顕微鏡像 / Credit:Wikipedia Commons

性器ヘルペスへの感染は、単純ヘルペスウイルス(HSV)が原因ですが、このウイルスには1型(HSV-1)および2型(HSV-2)が存在します。

HSV-1は、主に唇やその周辺にできる「口腔ヘルペス」の原因となりやすいウイルスです。

一方HSV-2は、主な感染経路が性行為であり、「性器ヘルペス」の原因となりやすいウイルスです。

とはいえ、オーラルセックスの一般化により、口から性器にHSV-1が感染することもあるため、HSV-1およびHSV-2のどちらも性器ヘルペスの原因となりえます。

そこでハルフーシュ氏ら研究チームは、HSV-1およびHSV-2における単純ヘルペスウイルスの有病率を最新のデータを利用して調査することにしました。

彼女らは世界保健機関(WHO)が有する世界の地域別の性器ヘルペスの感染データを使用しました。

チームはこのデータセットから2020年までに収集された情報を数学モデルへ入力し、分析に役立てています。

その結果、世界中の15~49歳のうち、約9億人が性器ヘルペスに罹患していると分かりました。

これは50歳未満の約24%、もしくは5人に1人が完治不可能な病を患っていることを意味します。

50歳未満の5人に1人が性器ヘルペスに罹患している / Credit:Canva

これだけ多くの人が既に感染しているなら、自身がパートナーを介して感染したり、逆に感染させたりしたとしても何ら不思議ではありません。

ちなみに、HSV-2による性器ヘルペス患者は5億2000万人であり、HSV-1による性器ヘルペス患者は、3億7600万人でした。

この結果は、オーラルセックスによっても性器ヘルペスが大きく広がっていることを示すものです。

そしてこのウイルスによって毎年、性器の痛みに悩まされている可能性のある人は合計2億500万人にものぼることが分かっています。

いつか性器ヘルペスを完治できる時は来るのでしょうか。

現段階では解決の糸口は見えていません。

アメリカのイェール大学(Yale University)に所属する岩崎明子氏は、性器ヘルペスは性行為で感染するため、患者は病気についてあまり話そうとせず、社会的偏見のため、ワクチン開発の研究が思うように進んでいないという問題を指摘しています。

また製薬会社の関心も高くなく、資金不足も大きな課題となっています。

では、私たちは個人として、性器ヘルペスの感染を防ぐために何ができるでしょうか。

もし感染歴があるのであれば、無症状でもウイルスを排出している可能性があります。

コンドームを正しく使用することでパートナーを感染させることを防げます。

またオーラルセックスであってもコンドームを使用することでHSV-1による感染を防げます。

さらに性器ヘルペスの症状が出ている場合は大量のウイルスが排出されているため、キスや性行為を避けることで感染を防げます。

いずれにせよ、性器ヘルペスについてよく知り、この完治不可能な病を甘く見ないことが大切です。

参考文献

Study Reveals More Than One in Five Are Infected With an Incurable STI
https://www.sciencealert.com/study-reveals-more-than-one-in-five-are-infected-with-an-incurable-sti

元論文

Estimated global and regional incidence and prevalence of herpes simplex virus infections and genital ulcer disease in 2020: mathematical modelling analyses
https://doi.org/10.1136/sextrans-2024-056307

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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