
「日本の若者たちは躊躇わない」堂安、菅原、小川、塩貝…オランダの“目利きの達人”がサムライたちの入団秘話を明かす。「アイ・カム!って自分で決めちゃうんだ」【現地発】
堂安律(フローニンヘン/現フランクフルト)、菅原由勢(AZ/現ブレーメン)、そして小川航基、佐野航大、塩貝健人(いずれもNEC)――。フローニンヘンとAZのチーフスカウトとして、NECではテクニカル・ディレクターとして、カルロス・アールベルスは5人の日本人選手をエールディビジの舞台に送り込み、その全員が活躍している。そんな「日本人選手の目利きの達人」と5分ほど立ち話をすると、何度も「サムライブルー」「青いユニホーム」「なんと素晴らしい」「アイ・カム」という4つのフレーズを繰り返した。
「日本人選手はヨーロッパでプレーしようとする意欲が高いですよね。イングランド、ドイツ、スペイン、オランダ、ベルギー…。いたるところにいます。
若い選手にとってサムライブルーは夢。あの青いユニホームを着るために、彼らはヨーロッパでプレーしなければならない。『うちのクラブは君に興味がある』と声をかけると、日本人選手はためらうことなくヨーロッパにやって来る。なんと素晴らしいことなんだ」
アールベルスTDは堂安をスカウトした当時を振り返る。
「私はそのとき、フローニンヘンのチーフスカウトでした。堂安は2016年のU-19アジアカップと17年のU-20ワールドカップで活躍し、ヨーロッパのいくつかのクラブが彼のことを追ってました。それでも彼は初めて声をかけたクラブに移籍することを決めたのです。他からのオファーを待つことなしにね」
特に2ゴールを決めたイタリア戦(2―2の引き分け)はセンセーショナルだった。
――かつて、堂安選手は「ハンス・ナイラント社長(当時)とアールベルスさんが大阪まで直々に来てくれたのが嬉しかった。最初に声をかけてくれたクラブだし、フローニンヘンに行くと決めました」と言ってました。
「はい。私とハンスは開催地の韓国からそのまま大阪に飛びました。夢、それは日本代表の青いユニホーム。そのために、何がなんでもオファーの話が来たら、日本人は即座に決心してヨーロッパへ飛ぶ。ユキもそうだった」
“ユキ”とは菅原由勢のこと。当時、名古屋グランパスで期待の若手だった菅原だったが、トップチームに定着できず、「19年U-20ワールドカップ(ポーランド)で活躍して、自分はヨーロッパのクラブに移籍するんだ」という覚悟で大会に臨んだ。ベスト16で自身のミスから韓国に敗れたものの、大会中のプレーは輝いていた。
「私はAZのTDと一緒にU-20ワールドカップをポーランドで視察したうえで、ユキのマネジメント会社とコンタクトを取ろうとしたが、ユキ自身が『日本に一度帰ってから、すぐにオランダに行きます』と言い出したんだ。
両親や兄弟、周囲にいる人と相談するのが普通。他のクラブからのオファーを待って、それから返事をするのも当たり前のこと。だけど日本の若者たちは『アイ・カム!(オランダに行きます。だから僕を獲ってください――という意味が含まれている)』と自分で決めちゃうんだ。それは夢のため。サムライブルー。あの青いユニホーム。なんと素晴らしい人たちなんだ」
ここで居残り練習を終えた小川航基が来てくれた。アールベルスTDは「今、この記者に君たち日本人のことを褒めていたんだ。日本人選手たちは私が誘うと迷うことなく『アイ・カム!』って答えるって。君もそうだったよね」と小川に言った。そして小川にも分かるように、ここまでの話を伝えた。
「私は日本人の選手たちに感謝してます。日本人の若者たち、それは君(小川)もそうだったけど、堂安、菅原たちに私が『君に興味がある』と言うと『イエス、アイ・カム!』と即答した。ヨーロッパに行ってステップアップし、サムライブルーの青いユニホームを着るために。これから他のクラブからオファーが来るかもしれない。これから家族とも話さないといけない。だけど日本人選手は即座に『アイ・カム!』って言うんだ」
純粋に夢を追うためにオランダにやって来た日本人選手たち。その姿勢にアールベルスTDは感銘を受けたのかもしれない。
ディック・スフローダー監督に「あなたは日本人選手を上達させるエキスパートですね」と声をかけると「そう思う?」と答えた。特に(佐野)航大と(中山)雄太――と言うと、指揮官は「ユータ!」と言って満面の笑みになった。
「ユータはスペシャル。ユータは私のお気に入り。今、日本だよね」
私にとってもPECズウォーレ時代の中山雄太(現町田ゼルビア)は忘れられない。2019年1月、柏レイソルからズウォーレに移籍した中山は、超がつくほどの多機能プレーヤーぶりを見せたが、それ以外のストロングポイントに欠けていた。しかし21年11月下旬、当時最下位だったズウォーレの監督にスフローダーが就くと、サッカーの質が高まり、勝点を積み重ねるようになった。
ズウォーレのシステムは4-3-3から3-5-2に代わり、リベロに固定された中山は水を得た魚のように攻守に躍動。クレバーな守備、左サイドからの刺すような前線へのパス、ピッチ中央でのビルドアップなど、さまざまなタスクをこなして一躍注目される存在になった。結局、前半戦の不振が祟り、ズウォーレは降格したが、PSVとの最終戦(1―2の敗戦)後は、スタンディングオベーションでチームの健闘を称えるほど、スフローダー監督の指揮したズウォーレは魅力的で、中山も才能を開花させた。
中山が「ズウォーレの頭脳」だったのなら、佐野は「NECの心臓」だ。だから私はこの2人の名前をスフローダー監督に挙げた。
「だけど、私は航基もより良い選手にしたと思います。健人も徐々に良くなってきました。健人は自身の向上に集中している。全体練習が終わったあともピッチに残って、コーチと一緒に個人トレーニングに励んでいます。その結果、テクニック、パス、シュート、ボールを呼び込む走りなど、どんどん向上しています。健人がより気持ちを落ち着かせてフットボールに取り組めば、さらに良くなるはずです。健人はちょっと気持ちがはやりすぎているのでね(笑)」
スフローダー監督の言う通り、この日も塩貝は誰よりも遅くまでピッチに残って個人練習に励んでいた。
日本代表にとってはJリーグ、オランダ代表にとってはオランダリーグ。やはり代表チームの基盤は国内リーグにある。プレミアリーグをはじめ、ラ・リーガ、セリエAで主力を務めるオランダ人選手もその多くはオランダ2部リーグ→エールディビジというステップを踏んでいる。そのことを前提に「日本はエールディビジから大きな利益を得ていると感じます」とスフローダー監督に尋ねた。
「そう思う? 日本人はドイツとか他の国でもプレーしている」
――特にNECから日本は利益を得ていると感じます。システムはともに3-4-2-1。
「ヤー!(はい、のオランダ語) 試合を見たよ。日本代表もかなり前がかりなチームだ」
――日本とNECのアタッキングサードは“5トップ+MF”。NECの場合は佐野航大が中盤から前線に入っていきます。
「私は彼がワールドカップに出場するのを願ってます」
――フェイエノールトのロビン・ファン・ペルシ監督は「(上田)綺世はオランイェ(オランダ代表の愛称)相手にゴールを決める力を持つ」と言った。航基はどうでしょう?
「もちろん、決めることができる。これまで航基は国際試合でいろいろな国からゴールを決めてきた。オランダ相手に決める力を当然、持っている。だけど健人も決められる。健人はNECでは途中出場でゴールを決めまくっている。だから、日本代表もその策を使える」
オランダに来てから10ゴール(昨季4ゴール、今季6ゴール)を決めている塩貝は、そのすべてを試合途中からの出場で叩き出している。
――スーパーサブ、ピンチヒッター(オランダではサッカー用語化している)!
「ヤー。スーパーサブ、ピンチヒッター!」
NECでの日々の練習は、そのまま日本代表の強化に繋がっている。いや、ファン・ペルシ監督率いるフェイエノールトでゴールマシーンと化した上田綺世、28歳にして代表チームに定着した渡辺剛、アヤックスでアンカー→CBの可変システムに必死に取り組んでいる板倉滉といった代表チームの主力たちも、各クラブでそれぞれのテーマを掲げて練習と試合に励んでいる。
取材・文●中田 徹
【画像】北中米W杯、確定した全12グループの内訳を“出場国集合写真”とともに総チェック!
【画像】どこもかしこもデザイン刷新! 世界各国の北中米W杯“本大会用ユニホーム”を一挙公開!
【画像】絶世の美女がずらり! C・ロナウドの“元恋人&パートナー”たちを年代順に一挙公開!
