
ナウシカがひとりたたずむ『風の谷のナウシカ』ポスタービジュアル (C)1984 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, H
【画像】え…っ「何度観ても怖すぎ」「エグッ」こちらが王蟲と戦うはずだった巨神兵です(3枚)
絵コンテや関係者の証言からは判明した幻の展開
アニメ映画の巨匠である宮崎駿監督の制作方法は、まずイメージボードと絵コンテ作りからスタートします。しかし、制作の都合や表現の探求により、当初の設定や絵コンテが変更されることも少なくありません。代表的な作品でもある『風の谷のナウシカ』『となりのトトロ』『崖の上のポニョ』にも、制作過程でやむなくカットされた「幻の展開」が存在しました。
映画化直前に断念された「幻のシーン」があった
『ナウシカ』(1984)は、正式にスタジオジブリが発足する前のスタジオ「トップクラフト」にて制作されました。当時は、圧倒的なスタッフ不足で制作体制が整っておらず、後に『新世紀エヴァンゲリオン』を生み出す庵野秀明監督が面接で即採用され、「巨神兵」を作画したエピソードは有名です。
実は当初の絵コンテにはクライマックスにおける「巨神兵」と「王蟲」の対決が描かれていました。しかし、公開日までに完成させるために、宮崎監督は当初の絵コンテを断念し、現行の絵コンテに変更したのです。もし、当時のスタッフ不足が解消されていたら、「巨神兵と王蟲の対決」のシーンが現実のものとなったのかもしれません。
本来、ひとりの少女の物語だった?
1988年に同時上映された『トトロ』と『火垂るの墓』は、両作品とも90分弱の上映時間で、合計約3時間というアニメとしては異例の長尺になりました。
もともとは2本とも60分の予定だったのですが、高畑勲監督が『火垂るの墓』をよりよい作品にするためにこだわりぬいた結果、88分の長編作品になったのです。
それを知った宮崎監督は『トトロ』も時間を延長しようと試みます。長年の同志であり、ライバルでもある高畑監督への対抗意識もあったのかもしれません。そこから、本来はひとりだったヒロインを姉妹にすることを考えつき、「サツキ」と「メイ」が誕生しました。
最終的に『トトロ』は86分と、『火垂るの墓』より2分短い上映時間になりました。この設定の変更が影響して、映画完成後に作られたポスターは、サツキでもメイでもない少女が描かれているのです。
宮崎監督思い入れの場面を大幅カット?
2008年に公開された『崖の上のポニョ』の主人公「宗介」の母「リサ」は、デイケアサービスセンター「ひまわりの家」に勤務しています。
そこに通う「トキ」をはじめとするお年寄りは電動車椅子を使用していました。ところが、終盤に「ひまわりの家」が津波で海に沈むと、身体が自由に動くようになります。
トキは宮崎監督の亡くなった母がモチーフになっており、思い入れのあるキャラクターだったためか、この場面の元の絵コンテでは、もっと長いシーンになっていました。
しかし「本題の『ポニョ』と『宗介』の話が飛んでしまっていること」や「尺が長くなりすぎて公開日に間に合わない」という理由で、鈴木敏夫プロデューサーがシーンカットを助言します。宮崎監督は鈴木プロデューサーの提案を受け入れ、現在の形に落ち着いたのです。
ちなみに鈴木プロデューサーは『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』という本のなかで、「あの幻のシーンをそのまま描いていたら、どういう映画になっていたんだろう? そのほうがファンにとっておもしろかった可能性もあるんじゃないか? 自分は宮さんがやりたいことを止めちゃっているんだろうか? そう思うこともあります」と語っています。
スタジオジブリ作品には、常に制作上の決断と、幻となった熱意が詰まっています。カットされたシーンは、作品の奥行きを深くする裏設定といえるでしょう。
参考文献:『天才の思考』著:鈴木敏夫
