「給料は上がらない」「物価高騰で生活費が苦しい」。未来予測に希望が持てない今の日本では、どんな行動がお金を生み出すのか。「日本人の使えるお金が、ゼロになったわけではない」と堀江貴文氏は説く。
著書『あり金は全部使え』(マガジンハウス新書)より一部抜粋・再構成してお届けする。
日本は凋落しているか?
仕事の忙しい現役世代にとって、日本経済の凋落は、見過ごすことのできない問題だろう。国の経済の浮き沈みは、働き手すべての賃金に影響する。 経済の成長率で年々、日本がランキングを下げているニュースや、大手企業や国内の土地が外資に買われるのを見ると「日本は貧しくなったなぁ……」「給料は上がらないんだろうなぁ……」と、ため息をつきたくなると思う。
ちなみに2025年のアジア経済成長率ランキングで、日本は24位。上げ調子のマカオ、ベトナム、インドなどに大きく差をつけられている。中国、台湾、韓国よりも下だ。世界では172位と、順位的には、しばらく低迷している。
少子高齢化で、人口ボーナスの見こみは絶望的のため、正直なところ日本の経済の成長ターンは「終わった」感が強い。
とはいえ、である。 経済成長率が歩留まりな状態は、実は数十年前から変わっておらず、リーマン・ショックなどを最低限のダメージで乗り越え、大きな経済破綻もなかった。全体の経済力では依然、先進国の上位をキープしているのだ。
2024年時点での日本の名目ベースのGDP(国内総生産)は、世界の第4位。アジアでは中国に次ぐ第2位だ。1位に返り咲くのは難しいかもしれないが、近年のマーケットの情勢を見る限り、大きく下がることもないと思われる。
僕は世界を飛び回ってビジネスをしているので、円の信頼度が世界のマーケットで、いかに高く信頼されているか、よく実感している。ネガティブな一面を切り取ったニュースだけで、悲観することはない。
日本人として、日本で生活している。世界基準で見れば、それだけでトップクラスの大金持ちなのである。急成長するアジア経済のなかで、日本は決して、置いて行かれている分野ばかりではない。
日本人の使えるお金が、ゼロになったわけではない
インバウンドを軸にした観光業は絶好調だ。訪日観光客の数は2025年上半期ですでに2000万人を超えている。過去最速のペースで、おそらく来年も記録は更新されるだろう。昨年のインバウンド消費は8兆円強。この額も、続いて更新されるはずだ。小さな国の国家予算並みの収益を、観光で稼ぎ出している国は、そう多くはない。都心や地方の観光地は、もはや日本人の方が少ないような印象だ。数字で測るまでもなく、日本の観光ブランドは、世界で抜きん出ている。安くて安全で、質のいいサービスを楽しめる。
それが日本ブランドの強みだ。裕福な中国・韓国・シンガポールなどアジア周辺国の訪問客を、採り入れやすい地政学的なリードもある。
この地政学的な利は、西洋諸国からは、とても魅力的に解釈されている。
中国やタイなど、近年のアジア経済のキーポイントとなる国へのアクセスが、西洋諸国はあまり良くない。歴史的な関係性も、深いとは言えない。豊富なアジアマネーの行き先は、地理が近く、交易の長い歴史を積み重ねてきた日本に集中するのは当然の流れだ。
特に、遣隋使・遣唐使の時代から東アジアとの交流が盛んだった九州地方は、今後も台湾や香港の有力企業が進出し、顕著な経済成長が見こまれる。日本はアジアマネーのほぼ中心にいて、高い観光ブランドを保ちつつ、周辺の経済成長国のお金の流動を「様子見」できる。世界情勢がどれだけ変わろうと、日本はアジア金融の要衝という、恵まれたポジションであり続けるのだ。
日本は一概に、貧しくなったわけではない。例えば、あなたの給料が低いのは別に「日本が凋落した」からではなく、単純に努力が足りないか、選んだ会社が悪いだけだ。
かつて僕は著書のなかで、次のように論じている。
「生まれた場所、今住んでいる場所に人生を決められる時代の終わり――これこそがN(日本)の解体の本質だ。その後に待っているのは、完全な自由競争社会である」 ITによるグローバリゼーションによって、日本の経済的優位は薄れたけれど、膨大な投資マネーと人的リソースは、怒濤の勢いで流れこんでいる。
人もお金も、国を超えて混ざり合っているのだ。『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の時代は、とうに過ぎ去った。でも、日本人の使えるお金が、ゼロになったわけではない。ダイナミックな変化を楽しみつつ、新しいフォーマットの世界で自由に働き、遊び尽くせる人が、真のお金持ちになれる時代なのだ。

