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世界の漁業生産量は過去最多なのに、日本だけ激減の謎──天然は頭打ち、養殖爆伸びの時流のなか“魚の国ニッポン”の明日はどっちだ?

世界の漁業生産量は過去最多なのに、日本だけ激減の謎──天然は頭打ち、養殖爆伸びの時流のなか“魚の国ニッポン”の明日はどっちだ?

マグロはそれぞれ、サバはサバ類

一方、ベスト10の魚種をみると、人気のマグロが入っていない。マグロは、種類ごとに分類されており、キハダマグロ(4万6700トン)を筆頭に、メバチマグロ(2万9000トン)、本マグロ(クロマグロ、1万3400トン)など。いずれもベスト10入りしていないが、「マグロ類」とまとめると、12万3100トンとなり、カタクチイワシを超えて6位となる。

お気づきかもしれないが、水揚げ上位の魚種で「サバ類」と「ブリ類」は、「サバ」や「ブリ」ではなく、「○○類」と分類されている。マイワシは、単独の魚種として公表されているが、イワシと付く魚にはカタクチイワシやウルメイワシなどがある。それなのに「イワシ類」としてカウントされていないのはなぜだろうか。

それぞれの順位に関わってくるだけに、少々不公平な気もするが、仕方のない面がある。例えばサバ類の場合、マサバとゴマサバは、魚市場などで価値が異なり、マサバのほうが高く売れるが、それは大型魚に限った話である。

大半を占める小型魚は、養殖の餌や飼料・肥料などに使われるため、供給側からすれば選別する必要がない。さらに漁港関係者によれば、「そもそも小さいとゴマサバ特有の斑点が薄く、マサバとの見分けも付きにくい」こともあって、今後もマサバとゴマサバを分けてカウントすることはできないだろう。

これに対し「マイワシ」は、単独で漁獲されることが多く、水揚げ段階での区別が可能。イワシと付く魚には、カタクチイワシやウルメイワシなどがあるが、水揚げ時に別々に集計することができるのだ。

こうした魚統計における限界が当然、順位にも大きく影響することがある。マイワシは2024年、ダントツの水揚げで2019年から6年連続トップ。それ以前は、長らくサバ類が首位の座を守っていた。ただ、もしも「マサバ」と「ゴマサバ」が分けられていたら、少なくとも2016年から9年連続でマイワシが生産量トップだったことは間違いない。

このほか「ブリ類」については、ちょっと事情が違う。出世魚であるブリは、「ワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ」などというように、大きさによって呼び名が変わるが、その区分は地域によって違ったり、同じ漁港でも日によって呼び方にブレがあったりする。

そもそも出世魚とは言っても、それぞれの区分に、明確な大きさ・重量に関する規定があるわけではないから、扱われる漁港や魚市場などで、ざっくりした目安で魚名が使われていることが多い。

大型で10キロを超えるようなブリは、まさしく大ブリだが、それ以下(主に6キロから1キロ未満)の魚、つまりワラサ、イナダ、ワカシなどは、あいまいな基準で名付けられているから、漁獲統計上も同一魚種「ブリ類」としてカウントするしかない。

同様に「セイゴ→フッコ→スズキ」、「サゴシ→サワラ」、「シンコ→コハダ→コノシロ」といった出世魚も、流通段階ではそれぞれの魚名が付けられているものの、はっきりと区別することはできない。

出世魚とは言わないが、マグロの場合、本マグロとメバチマグロ、キハダマグロは、小魚に比べて大きいだけでなく、それぞれ魚の価値が大きく異なることから、小さくても水揚げの段階ではっきり分けられるため、別々にカウントされる。

ただし、マグロ類もこの3種については、例えば本マグロなら小型魚を「メジ」「ヨコワ」など、メバチマグロの小型は「ダルマ」、キハダマグロの小型は「キメジ」といった呼び名があり、漁港などでも使われているが、これらについても統一基準がなく、それぞれ大型魚の呼称で生産量が示されている。

加えて「サケ類」はもっとややこしい。「魚のプロでも説明が難しい」(東京・豊洲市場の競り人)というほど魚名の種別が複雑で、単に「サケ」と呼ばれる魚が、地域・市場によってシロサケや秋アジとされているほか、ベニザケ=ベニマス、サクラマス=本マス、マスケノスケ=キングサーモンなど、類似種や魚名がさまざまであるため、「サケ・マス」などと一括りにされることもしばしば。国の統計上はサケ類として、「サケの仲間」のような分類となっている。

魚名はそれなりにきっちりと表記する必要があるが、あまり基準を厳しくすると大きな混乱を招く。特にさまざまな料理に浸透しきっているサケ・マスの場合、「シャケ弁」を、場合によっては「マス弁」としなければならないのは、少々酷な話だろう。

日本の代表魚、人気は下位

一定の制約はあるものの、日本の魚に関する統計として指標となる漁業生産量は、近年は全体として減る一方である。さらに水揚げの筆頭は、マイワシを中心にホタテガイ、サバ類、カツオ、スケトウダラといった順に多いことがわかる。

筆者はよく、知り合いに「日本で一番獲れる魚はなんでしょう?」というクイズを出す。日本を代表する魚は何なのか。どれほどの人が知っているのだろうかと思い、この質問を投げかけるのだが、正解率はあまり高くない。ざっと3割程度である。

少なくともここ6年間、日本で一番獲れている魚であるマイワシの人気は、決して高くない。大量に漁獲されている割に、魚売り場で大量に売りさばかれているとは言いがたい。2位のホタテガイはそれなりの人気があるし、どちらかといえば高級貝の仲間ということもあって、消費拡大への可能性を探る必要はあまりないが、3位のサバ類などの大衆魚と呼ばれる魚は、たくさん生産されている割に、国内消費が少なくて話題になりにくい。

日本で魚が獲れなくなって漁業が衰退し、世界的に人気を博している和食・魚食文化が廃れようとしている。そうした中、今の魚の生産・流通・消費の実態をこのまま放置していれば、将来の日本漁業は、本当に崩壊してしまうのではないかといった不安が高まってくる。

逆に言えば、たとえ魚の全体の水揚げが低調であっても、水揚げが上位で比較的たくさん獲れている魚たちをもっと利用すれば、漁業者の実入りも上がり、魚食文化の継承についても、別の筋書きが描けるようになってくるのではないかと思う。後述するが、それだけメジャーな国産魚が見過ごされている現状がある。

筆者は日本の漁業を「捨てたもんじゃない」と感じている。地球規模の温暖化に伴う海洋環境の変化により、豊漁・不漁を繰り返す魚資源は、漁獲管理だけで完璧にコントロールすることは難しい。世界的に見ても天然魚の漁獲が不振となっているだけに、獲れているマイワシをはじめとした日本を代表する魚を、有効に利用していかなければならない。

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