「下町の太陽」と呼ばれる女優・倍賞千恵子と、酒席をともにしたことがある。もう今から40年ほど前のことだ。
倍賞といえば映画「男はつらいよ」のさくら役や、主演映画とその主題歌のタイトルから「下町の太陽」が代名詞となっている。控えめでおっとりした、大和撫子のようなイメージだ。
筆者が彼女と酒席で会ったのは、映画「植村直己物語」のロケが行われたカナダでのことだ。1985年4月、北極圏の島レゾリュートでロケが行われ、植村役の西田敏行と妻役の倍賞が2人寄り添ってオーロラを見る…といった感動的なシーンなどが撮影された。
撮影後、カナダの主要都市のひとつ、エドモントンのホテルで2日ほど過ごした。この際、ロケに同行した記者5人と、倍賞を囲んで一杯やろう、ということになったのだ。
最初は氷点下20度という極寒の中の撮影の苦労話などを話していたが、酒が進むにつれて、倍賞のテンションはどんどん上がっていった。雑談では下ネタっぽい話に反応し「キャハハッ!」と笑い声をあげるなど、筆者が描いていたイメージとは全く違う、豪快な雰囲気の女性になっていた。
そのうち先輩記者たちが面白がって、筆者が恋愛問題で悩んでいる…という話を倍賞に振った。すると倍賞は「なんなの、しっかりしなさいよ!」といって筆者の額をペチペチ叩いて奮起を促した上で「女の子はいっぱいいるんだから。今から街に出て、探してきなさいよ!」と筆者を励ましてくれた。
「下町の太陽」は酔うと男勝りで、陽気で豪胆な女性になってしまうタイプだったようだ。
(升田幸一)

