
人類にとっていまだ多くの謎に満ちた深海世界。
そこでこのほど、新種の肉食性スポンジ(海綿)が見つかったと、日本財団およびNekton財団によって設立された「Ocean Census」のチームにより発表されました。
まるでスーパーボールが集まったような奇妙な見た目をしており、研究者らは「デスボール・スポンジ(death-ball sponge)」と呼んでいます。
目次
- 海底に棲む「肉食スポンジ」の新種の姿とは?
- 生命の多様性は「氷山の一角」
海底に棲む「肉食スポンジ」の新種の姿とは?
チームは今回、調査船「R/V Falkor (too)」と深海探査ロボット「SuBastian」により、南極海のサウスサンドウィッチ諸島付近を徹底的に調査。
その中で、水深3600メートルを超える暗闇の海底で、不思議な生物がカメラに映し出されました。
それが「コンドロクラディア属(Chondrocladia)」という海綿動物グループの新種、通称「デスボール・スポンジ」です。
一見すると、棒の先にスーパーボールのような球体がいくつも付いた奇妙な姿。
しかしその表面は微細なフックで覆われており、小型の甲殻類などの獲物が近づくと、逃げ場を与えず捕らえてしまいます。
【実際の画像がこちら】
普通のスポンジは海水をろ過してプランクトンなどを取り込む「受動的」な生き物ですが、デスボール・スポンジは明確な捕食者として進化していたのです。
しかも、こうした肉食性のスポンジが深海で独自の進化を遂げていること自体が、海洋生物学者たちの想像を超えていました。
加えて今回の調査では、虹色に輝く鎧を持つ新種のウロコムシや新種のヒトデ、珍しい甲殻類など、他にも多様な深海生物が次々と発見されています。
巨大な氷山の下に広がる未知の生態系や、熱水噴出孔付近の極限環境にも、未知なる命の姿が記録されました。
まさに「地球最後のフロンティア」と呼ばれる深海には、私たちの知らない世界が今なお広がっているのです。
生命の多様性は「氷山の一角」
南極海の生物多様性は、まだほんの一部しか解明されていません。
今回の調査だけでも14の動物門から約2000体の標本が採取され、数千枚の高解像度画像や動画も得られました。
それでもチームによると「収集したサンプルの3割も解析できていない」のが現状です。
それにも関わらず、すでに30種の新種が確認されているという事実は、この海域に“未発見の命”が無数に存在する可能性を強く示しています。
さらにオーシャン・センサスでは、標本を迅速に分類し、DNAバーコーディング技術などを駆使して、従来なら何年もかかる種判別をわずか数週間で進めています。
新たに記録された種はすべてオープンアクセスのデータベースで世界中に公開され、生物多様性の保全や将来の科学研究に役立てられる予定です。
また、巨大ダイオウイカの幼体を世界で初めて撮影したり、火山活動で生まれる極限環境に適応した巻貝や二枚貝の新種も発見されています。
こうした成果は、「最先端テクノロジー×国際科学ネットワーク」の力によるものです。
人類がまだ見ぬ生命の謎が、着実に解き明かされつつあります。
参考文献
Meet The Latest Deep-Sea Horror: Meat-Eating ‘Death-Ball’ Sponges
https://www.sciencealert.com/meet-the-latest-deep-sea-horror-meat-eating-death-ball-sponges
PRESS RELEASE: Carnivorous “Death-Ball” Sponge Among 30 New Deep-Sea Species from the Southern Ocean
https://oceancensus.org/press-release-carnivorous-death-ball-sponge-among-30-new-deep-sea-species-from-the-southern-ocean/
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

