甘いものと、しょっぱいもの。その組み合わせに心をつかまれる人は少なくないはずです。
ホイップクリームときなこ、そこにとろりとかかるみたらしのタレ。思わず手に取りたくなるこの「みたらしコッペ」は、実は高校生・中学生のアイデアから生まれたパンです。
お店で並ぶパンの多くは、プロの職人や企業の商品開発部が考えたものというイメージがありますが、このパンは少し違います。発案したのは、全国で学ぶ生徒たち。授業の一環として行われた体験型プログラムの中で、「まだ世の中にないパン」をテーマに試行錯誤を重ね、実際の商品化にまでつながりました。
注目したいのは、アイデアを出すこと自体で終わらなかった点です。製造工程の制約や現場の視点を踏まえながら、何度も方向転換を行い、現実的な形へと落とし込んでいく。そのプロセス自体が、学びとして丁寧に積み重ねられていました。
この取り組みは、パンの話であると同時に、「学びが社会とどうつながるか」を考える一例でもあります。若い世代の発想が、企業と交わり、実際の商品として店頭に並ぶ。その背景にある教育の姿勢にも、自然と目が向く内容です。
一度は立ち止まったアイデアが、パンになるまで

一見するとユニークな発想から生まれたように見える「みたらしコッペ」ですが、その裏側には想像以上に地道な試行錯誤がありました。
このパンは、全国から集まった中高生たちが参加した体験型の学習プログラムの中で生まれた企画です。テーマは「まだこの世にないパンを考えること」。自由な発想が求められる一方で、実際に商品として成立するかどうかという現実的な視点も同時に突きつけられました。
当初、生徒たちが考えていたのは、見た目も華やかな別のスイーツパンでした。しかし、製造工程の複雑さや現場での再現性といった課題が浮かび上がり、「このままでは商品化は難しい」というフィードバックを受けることになります。
アイデアそのものを否定されたわけではありませんが、実際に作り、売ることを考えると、修正が必要だったのです。
ここからが本当のスタートでした。
生徒たちは既存の商品や製造ラインを改めて見直し、どんな形なら現実的に作れるのか、どんな素材ならパンと相性が良いのかを一つずつ検討していきます。和の素材として挙がった案の中から、意外性がありながらも親しみのある「みたらし団子」に着目し、パンと組み合わせる方向へと舵を切りました。
「自由な発想」と「現実的な制約」。
その間を行き来しながら何度も考え直し、形を変えていく過程を経て、最終的にたどり着いたのが「みたらしコッペ」でした。
ひとつのパンが生まれるまでには、アイデアだけでなく、考え抜く時間と柔軟な発想の切り替えが積み重なっていたことがうかがえます。
アイデアを終わらせない、N高グループの学び方

この取り組みが印象的なのは、生徒の自由な発想だけでなく、それを現実の社会と結びつける環境が用意されていた点です。
アイデアを考えて終わりではなく、企業と一緒に検討し、実際の製造現場や店舗の視点を踏まえながら企画を磨いていく。その一連の流れが、学びの中に自然に組み込まれていました。
生徒たちはオンラインでの講義やワークショップを通じて基礎を学びつつ、実際に工場や店舗を訪れ、パンづくりの現場や売り場を知る機会を持っています。そこで得た気づきが、机上のアイデアを「現実的な商品企画」へと変えていく材料になっていきました。
また、途中で方向転換を求められた場面でも、「失敗」として終わらせるのではなく、なぜ難しいのか、どうすれば実現できるのかを考え直すプロセスそのものが重視されています。制約を理由に諦めるのではなく、条件の中で最適解を探る姿勢が、結果として「みたらしコッペ」という形につながりました。
こうした学びのあり方は、単に商品を生み出すことが目的ではありません。
自分たちの考えたものが、社会の中でどのように受け止められるのか。誰と協力し、どんな調整が必要なのか。その過程を経験すること自体に価値があります。
今回のパンがN高グループの学びの中から生まれたのは偶然ではなく、学びと社会を結びつける仕組みが日常的に用意されているからこそだと言えそうです。
