横向きで走る、どこかコミカルな動きの「江戸走り」。火付人は「膝痛を克服するための最高の走り方を研究」する大場克則さん(61歳)だ。去年12月から今年11月にかけてのショート動画の総再生数は2億7000万回を突破というとんでもないブームになっている。アイドルや小学生までもが真似をするこの現象の秘密に追った。
実は…「私自身が“体現化”した動きなんです」
「江戸走り」とはいうものの、江戸時代の人々が実際にこのような走りをしていたかどうかは定かではない。「江戸走り」は大場さんが2014年から国会図書館で、さまざまな文献を見て実際の動きで再現する研究を続けた結果、独自に考案したものだ。
「当時の映像などはないですからね。浮世絵などに天秤棒を担いだ商人がこのような走り方をしている様が描かれているのを見たり、飛脚や忍者の歩きや走り方を研究し体の機能を考えたりした結果、私自身が“体現化”した動きなんです。100kmのマラソン大会を膝の痛みに耐えきれず途中棄権した私自身の苦い体験から、膝や体に負担をかけずに長く、そして速く走れる方法をと考え、この動きが生まれました」
いま、「江戸走り」として流行っているのは実は応用編の片半身の走り方だ。今年10月5日に投稿したショート動画がバズり、1739万回再生になったのだという。
「Instagramは2017年からコツコツ投稿してましたけど、去年夏に『これからはショート動画』だと仲間から聞き、江戸の歩き方の本来の方法である『腰を前に傾かせて膝を曲げ、つま先立ちになり、かかとで着地しない』歩行や走行動画を投稿したら、なぜか去年12月14日にバーンと伸びて。
そして今年10月5日に横向きで走る応用編を投稿したら、再生回数が数百、数千万回と伸びました。この片半身の走り方は、くまモンまで真似をしてくれました。すると本家のこちらの再生回数も伸びる状況です」
誰かのダンスや動きを真似することがブームの発端にもなるSNS。特に今回はモデルやタレントなどの女性が真似をしたのも大きかったかもしれない。自身のInstagramに江戸走り動画を投稿したモデルでライバーの白石理桜さんは言う。
「指原莉乃さんがプロデュースした『=LOVE(通称イコラブ)』の大谷映美里ちゃんが今年の8周年ツアーのライブ中に移動シーンで『江戸走り』してたんです。それがめっちゃ可愛くて。指原さんとのインスタライブでもふたりが『朝までやろうよ! 江戸走り』って言って『江戸走り界隈』って言葉まで生まれてたので、いつか私も真似したいと思いました」
白石さんは縦型ショートドラマに複数出演しているが、シリアスな役どころが多いことから「ちょっとイメチェンしたかった」ということで、Instagramのショート動画で江戸走りする姿を投稿したのだという。
「ちょうど公園に紅葉を見に行った時に、ここで江戸走りしたら面白いかなって思って、江戸走りするショート動画を投稿しました。普段はこんな風におちゃらけたりもするんだよってことを皆さんにお伝えしたかったんです」
体育の時間に江戸走りで移動する子も
小中学生の間でもブームとなっているようだ。その様子を都内の小学校勤務の教師も微笑ましく見守る。
「江戸走り、学校でも流行ってますよ。私は低学年の担任なので、生徒と一緒に体を動かし遊びます。休み時間にどっちが上手に再現できるかみたいな感じで、子どもと一緒に遊んでます。体育の時間に江戸走りで移動する子も出始めました。授業中は、周りの子も真似してダラけた雰囲気ができてしまうので注意します。授業と休み時間は分けましょうね、と」
しかし、ある教師は「真似て微笑ましく見守れるダンスと、そうでないダンスがある」と苦笑する。
「カンカンダンスとかナルトダンスとかはまあ良いですけど…バーの方が踊ってた『西山ダディダディ』とか、ヤリラフィーが代名詞の『横揺れダンス』とかはちょっと子どもたちに真似されると複雑な思いです…」
都内の小学校のあるPTA会長も「(横揺れダンスのような)ヤンキーが踊る文化を子どもが真似るのはイヤですね。江戸走りならほほえましいですが」と話す。

