
コロナ禍ではビデオ会議特有の疲れ、いわゆる「Zoom疲れ」がよく話題になりました。
会議が終わった直後からぐったりして、次の仕事に移るのがつらいと感じた人も少なくなかったはずです。
では、こうした疲れは今も同じように起きているのでしょうか。
ドイツのヨハネス・グーテンベルク大学マインツ(Johannes Gutenberg University Mainz)の研究者らは、パンデミック後の働き方において、ビデオ会議がほかの会議と比べて特別に人を疲れさせるのかを改めて検証しました。
この研究は2025年8月28日付で学術誌『Journal of Occupational Health Psychology』 に掲載されています。
目次
- パンデミック後、「Zoom疲れ」はほぼ無くなっていた
- なぜ「Zoom疲れ」が見られなくなったのか
パンデミック後、「Zoom疲れ」はほぼ無くなっていた
「Zoom疲れ」という言葉が広まった背景には、パンデミック期の急激な働き方の変化があります。
多くの職場で対面の打ち合わせが難しくなり、仕事のやり取りが一気にビデオ会議へ移りました。
その時期の研究では、ビデオ会議に参加することが日々の疲労感と結びついて報告されることがあり、「ビデオ会議は疲れる」という印象が強まっていきました。
では、なぜビデオ会議は疲れると考えられてきたのでしょうか。
これまでの議論では、大きく三つの説明が挙げられてきました。
一つ目は、ロックダウンや社会的な孤立と結びついた「象徴的な意味」です。
ビデオ会議そのものが、当時の不自由さや閉塞感を思い出させる存在になっていた可能性があります。
二つ目は、画面越しでは表情や視線などの手がかりが読み取りにくく、余分な注意が必要になるという認知的負荷の説明です。
三つ目は、長時間座ったままで刺激が乏しいことで眠気やだるさが増えるという「受動的な疲労」の説明です。
今回の研究が焦点を当てたのは、こうした「Zoom疲れ」が、パンデミック後の現在でも同じように確認できるのかという点でした。
研究チームは、パンデミック期に行われた経験サンプリング研究を、2024年の状況で建設的に再現する形で調査を行っています。
研究者自身も、過去研究が一貫してZoom疲れを報告してきたことから、今回も同じ現象が残っている可能性を想定していました。
方法は、仕事の記憶をまとめて振り返って答えるのではなく、その都度短く報告してもらうやり方です。
参加者125人が10日間にわたり、直前に参加した会議について回答しました。
会議がビデオ会議か対面かといった形式に加えて、会議中に別の作業をしていたか、休憩や席を立つ機会があったか、会議後にどれくらい疲れたと感じたかなども記録されています。
その結果、合計945件の会議が集まり、このうち約62%がビデオ会議でした。
そして、ここで得られた結果は、直感と少し違っていました。
今回のデータでは、ビデオ会議は疲労感とも受動的な疲労とも結びつかず、ほかの形式の会議と比べて特別に消耗するものだとは言えない結果になったのです。
また、会議で積極的に発言したかどうか、会議中にマルチタスクをしていたかどうかは、ビデオ会議の疲れを左右する決定的な要因にはなりませんでした。
一方で、条件によっては差が出ることも示されています。
ビデオ会議が44分未満の場合、ほかの会議よりも疲れにくい傾向が見られました。
さらに、退屈だと感じられたビデオ会議は、わずかに疲労感が高まる傾向も報告されています。
では、どうしてこのような結果になったのでしょうか。
なぜ「Zoom疲れ」が見られなくなったのか
では、パンデミック期に「ビデオ会議は疲れやすい」と報告されてきた傾向が、なぜ今回は確認されなかったのでしょうか。
研究者たちは、ビデオ会議という形式そのものが必ず疲れを生むというより、当時の状況と結びついて疲れが強調されていた可能性を重視しています。
パンデミック期のビデオ会議は、単なる仕事の道具ではありませんでした。
外出制限、人と会えない生活、先の見えない不安などと一体になり、ビデオ会議が「隔たり」や「失われた日常」を象徴する場面になっていた可能性があります。
同じ画面、同じ会議でも、そこに乗っている空気が重ければ、疲れとして意識されやすくなります。
一方で、現在はビデオ会議が日常の業務ツールとして定着し、当時のような象徴性が薄れてきたと考えられます。
もう一つの説明は、慣れです。
人は新しい形式に初めて直面したとき、操作の手順や場の作法、振る舞い方に余計な注意を払います。
しかし数年かけて使い続けると、画面越しのやり取りが特別ではなくなり、負担のかかり方も変わっていきます。
今回の研究が示した「ビデオ会議は疲労と結びつかない」という結果は、こうした適応が進んだ可能性とも整合します。
ただし、この研究は「何をしてもビデオ会議は疲れない」と言っているわけではありません。
退屈だと感じられたビデオ会議で疲労がやや高まる傾向が見られた点は重要です。
つまり、形式の問題というより、会議の中身や関与感の低さが疲れにつながりやすい可能性が示唆されます。
また、44分未満のビデオ会議が疲れにくい傾向が示されたことから、短時間の会議運用には利点があることも分かります。
もちろん、今回の研究には限界もあります。
疲労は自己報告であり、心拍変動やホルモンなどの生理指標を直接測ったわけではありません。
また調査はドイツで行われており、文化や働き方が異なる地域で同じ結果が再現されるかは今後の検証が必要です。
さらに観察研究であるため、時代の変化が原因でZoom疲れが消えたと因果を言い切ることもできません。
それでも、この研究の意義ははっきりしています。
パンデミック期の結論を「永久の真実」として固定せず、歴史的状況が変わったあとに確かめ直したからです。
そのうえで、ビデオ会議がパンデミック後の職場で必ずしも疲労の主因ではない可能性が示されたことは、ハイブリッドワークや在宅勤務を評価する際の重要な材料になります。
会議の長さや退屈さといった、より扱いやすい要因に目を向ければ、働き方はまだ改善できる余地があるということでもあります。
かつて当たり前だと思われた「Zoom疲れ」は、状況の変化と人の適応によって、いまや目立たなくなりつつあるのかもしれません。
参考文献
Zoom fatigue is a thing of the past
https://www.eurekalert.org/news-releases/1100111
New study suggests “Zoom fatigue” is largely gone in the post-pandemic workplace
https://www.psypost.org/new-study-suggests-zoom-fatigue-is-largely-gone-in-the-post-pandemic-workplace/
元論文
“Zoom fatigue” revisited: Are video meetings still exhausting post-COVID-19?
https://psycnet.apa.org/doi/10.1037/ocp0000409
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

