・JAZZ Decoy
そういえば、ゴールド街にもミュージックバーがなかったっけな? まあ、歩いていればどこか見つかるだろう。小道にたむろするキャッチたちをいなして、ゴールド街を回った。
界隈を1~2周回っても、それと思しき店が見つからなかった。が、ふと見上げると「JAZZ Decoy」とある。和訳すると「囮(おとり)」か、いいね。その囮にかかってみよう。
階段を上がるとそこは小さなバー。ゴールド街らしい床面積の小さい横長のお店だった。カウンター上のテレビでは『ブレードランナー』が流れている。BGMはジャズではなかったけど、耳障りの良い洋楽が流れる。
日本人のお客さんが1人と、ここでもまた外国人観光客が2名。歌舞伎町周辺に外国人のいない店はもうないんだな。
そろそろビールに飽きたのでカンパリソーダ(税込1300円)をお願いした。もうカンパリに行っても良い頃合いに仕上がっている。取り立てて話すこともない。外国人たちも少し手持ち無沙汰な感じで、テレビを眺めている。少し椅子をずらしただけで、店内の全員がこっちを見たりして、なんとなく場は緊張していた。
こういう緊張感、嫌いじゃないなあ。気づかい合ってる空気、お互いに何かをつかもうとしている雰囲気に、平和なものを感じる。
すると突然、ママが男性にレコードを見せた。「今日中古屋で買ってきた」といってEarth, Wind & Fireのアルバムを出したのだ。どうやらこの男性は常連さんのようで「懐かしいねえ」なんてしげしげとそれを眺めている。
「こっちは新品」といって出したのが、CELESTEだった。イギリスの女性シンガーソングライターで、私は一時1枚目のアルバムにハマっていた。その彼女が新譜を出していたなんて知らなかった。
「CELESTE、アルバム出したんですね」
「先月出たみたいですよ。私は前のアルバム知らないけど」
「1枚目、いいですよ。おすすめです」
なんて話をして、思わぬ収穫を得た。まさかここでCELESTEの話を聞くとは、おとりにかかってみるもんだな。
・Alternative
さあ、もう1杯飲めるかな? ここまでで4100円使っている。あと1杯は行けるんじゃないの。ってことで、馴染みの店「Alternative」へ。ここは数カ月に1回程度訪ねており、飲みに出かけたときには締めに、マスターのクニさんの顔を見て帰るのが、私の流儀だ。
覗いてみると、今日に限ってクニさんは休みだった、残念……。それでも1杯とカンパリソーダを頼んだところで、スタッフの子に一応尋ねる。
「ここってチャージがあったよね?」
「はい、チャージが800円でカンパリが700円です」
「ってことは、トータルで~……、5600円! もういいや、せっかく気分がいいのに、5000円で切り上げるとか意味がわからん。1人忘年会なのに遠慮する必要ないだろ」
そんなわけで当初の予算は破棄して、私はフィーバータイムに突入しました。予算、気にして飲み歩くバカいるかよ!
ここでよく会う常連さんと、しょうもない世間話をして、今さらお互いの名前を確認し合ったりして、「どうせまたここで会うでしょ」とあてのない約束をして店を出た。
そして私が向かった先は……。
