解釈の違いは“捨て方”の違いだった

この発見により、量子力学と現実観の関係が改めてはっきりしました。
要するに「量子論に合わせて私たちが諦めるべき常識はどれか?」という問いに体系的な答えが用意されたのです。
研究チームは7つの前提をリストアップすることで、量子論の解釈ごとに「どの常識を犠牲にしているか」で分類できる新しい現実観の地図を提供しました。
たとえばパイロット波は主に⑤を、コペンハーゲン解釈は主に①を、多世界解釈は主に①を、関係性解釈は②を…というように、各アプローチの個性が一目瞭然です。
量子論の解釈論争はこれまで「どの解釈が正しいか」という形で平行線を辿りがちでしたが、今後は「自分たちは現実のどの前提を手放す立場なのか」を意識した建設的な議論ができるかもしれません。
以下の表は既存の量子論が7つの条件のどれを捨てて(拒否して)いるかをまとめた表です。
このような1枚の表で複数の量子論をまとめきれるのは、非常に大きな成果だと言えます。

また本研究の考え方は、量子力学に留まらず広い文脈で応用できる点も興味深いところです。
著者らはヘプタレンマという7つの前提リストを一種の診断キットとして使えば、「その分野が古典的、つまり直感どおりかどうか」を判定できると述べています。
もしある科学理論の世界で7つの前提がすべて満たされるなら、その領域は古典的常識の範囲内と言えます。
一方、量子力学のように何か1つでも成立しない前提があれば、そこに非古典的、つまり直感に反する性質が紛れ込んでいる可能性が高いのです。
実際、身の回りのマクロな現象や生物・地学といった分野では上記の七箇条が問題なく成り立つため、私たちは違和感なく受け入れることができます。
しかし量子の世界だけは例外でした。
もしかすると、同じように私たちの常識が通じない「非現実的」な領域が他にもあるのかもしれません。
意識の研究など一部にはその可能性を示唆する議論もあります。
ヘプタレンマは、そうした未知の領域を炙り出す探照灯の役割も果たせるかもしれません。
本研究によって量子力学と哲学の橋渡しが進み、「現実とは何か」を巡る議論がより具体的に深まることが期待できます。
元論文
A Heptalemma for Quantum Mechanics
https://doi.org/10.48550/arXiv.2512.01982
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

