
「自分はまだ足りない」「自分の方法は間違っている」などと、自分を否定する言葉が内側から聞こえてくることがあるものです。
こうした心の中の言葉について、アメリカの心理学者マーク・トラヴァース博士(Mark Travers, Ph.D.)は、「使い方によっては、成長の邪魔ではなく“味方”にもなり得る」ことを教えています。
どうすれば上手に活用できるでしょうか。
目次
- 「自分を否定する心の中の言葉」はいつも悪者?
- 「自分を否定する内なる言葉」をガイドとして活用する
「自分を否定する心の中の言葉」はいつも悪者?
人は誰でも、心の中で自分に向けて言葉をかけています。
その中で、「自分は駄目だ」「また失敗するに決まっている」といった、自分を下げる方向の内なる言葉が、ここでいう「自分を否定する心の中の言葉(ネガティブなセルフトーク)」です。
長い間、こうした言葉は「自信を削るから悪いもの」と考えられてきました。
しかし近年の心理学研究は、この見方が必ずしも正確ではないことを示し始めています。
たとえば、2021年の研究では、fMRIと問題解決テストを組み合わせて、内なる言葉の種類が脳の働きや成績にどのような影響を与えるかが調べられました。
ここで比較されたのは、単なる「前向き/後ろ向き」な気分ではなく、自己尊重(self-respect)と自己批判(self-criticism)という、より具体的な自分への語りかけ方でした。
研究によると、自己批判、つまり自分を否定する方向の内なる言葉を用いた場合、最初の成績が特別に良くなるわけではありませんでしたが、次のテストでは成績が向上する傾向が見られました。
論文要旨では、その背景として「自信が下がる状態」が、注意力や内的動機づけを高める方向に働いた可能性が示唆されています。
一方で、自己尊重、つまり自分を肯定する方向の内なる言葉は、計画や判断といった実行機能を支える働きを強める可能性がある反面、実力以上の自信、いわば過信につながる面もあり得るとまとめられています。
この研究が示しているのは、「肯定は良くて、否定は悪い」という単純な話ではありません。
内なる言葉は、種類によって効き方が異なり、場面によって利点と落とし穴が分かれるということです。
では、私たちの心の中から聞こえてくる「自分を否定する言葉」を上手に活用するには、どうすれば良いのでしょうか。
「自分を否定する内なる言葉」をガイドとして活用する
2025年の研究では、内なる批判への対処が比較的うまい人を対象にインタビューを行い、どのような向き合い方が役に立っているのかが詳しく調べられました。
研究から見えてきたのは、うまく対処できている人たちは、内なる批判を無理に黙らせていないという点です。
彼らは、その声を自分そのものや絶対的な真実とは捉えず、自己思いやりと自己防衛の姿勢で応答していました。
内なる批判の出方にはいくつかの傾向があり得ることも分かっており、たとえば、「失敗を恐れる声」、「感情を避けようとする声」、「他者の評価を強く意識する声」、そして「特に厳しい自己嫌悪に近い声」などがあります。
重要なのは、どのタイプであっても、その奥には「傷つかないようにする」「危険を避ける」といった防衛的な目的があることを理解することです。
たとえば、頭の中で「この仕事は自分には無理だ」という言葉が繰り返し浮かぶことがあるかもしれません。
そのまま受け取れば、行動を止めてしまう原因になりかねません。
しかし、この言葉を無理に消そうとするのではなく、問い直すよう意識できます。
「その言葉は、何を恐れているのか」「失敗なのか、評価なのか、それとも準備不足への警告なのか」
こうして背景を探ると、内なる言葉は自分を罰するためのものではなく、改善点を示すサインとして使えるようになります。
トラヴァース博士は、繰り返し浮かぶ「否定的な心の言葉」をノートに書き出してみるよう勧めています。
それによって、心の声が絶対的な真実ではなく、過去の経験から学習された物語に過ぎないと気づきやすくなるからです。
自分を否定する心の中の言葉は、排除すべき敵ではありません。
自己非難に使うのではなく、自己修正につなげることで、それは私たちの集中や成長を支える内なるガイドになり得るのです。
参考文献
2 Ways to Use Your Negative Self-Talk to Your Advantage
https://www.psychologytoday.com/us/blog/social-instincts/202512/2-ways-to-use-your-negative-self-talk-to-your-advantage
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

